日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 心不全に関するQ >心不全の分類や治療について新しい考え方がいくつかできたと聞いています。日常診療にすぐ使えるものはありますか
心不全 Question 2
□近年、数々の大規模臨床試験により慢性心不全の治療に関して大きな進歩がありましたが、急性心不全の治療に関しては十分なエビデンスはなく、病院前を含む急性心不全の超急性期治療に関するガイドラインもないため、この時期の管理は経験的治療となっています。
□一方で、急性心不全の予後改善には早期治療開始が鍵であり、初期対応が重要と考えられるようになりました。2008年Mebazaaら1)は、急性心不全の病院前を含む超急性期の病態把握について収縮期血圧に注目したクリニカルシナリオ(CS)による分類を新たに提案し(表)、CS毎の治療指針を示しました。
表1 クリニカルシナリオ (文献1)2)より引用作成)
(1)クリニカルシナリオ1(CS1)
血圧上昇群(収縮期血圧>140mmHg)です。このシナリオでは通常症状は急激に進行します。広範な肺うっ血による呼吸困難を呈しますが、全身の浮腫は軽度のことが多いです。血圧の上昇に伴う充満圧の急速な上昇が特徴であり、左室収縮は保たれていることが多いです。。
(2)クリニカルシナリオ2(CS2)
血圧正常群(収縮期血圧100~140mmHg)です。このシナリオでは通常症状は徐々に進行し、体重増加を伴います。肺うっ血よりも全身浮腫が優位であり、慢性心不全の状態を呈します。腎機能障害、貧血、低アルブミン血症など種々の臓器障害を合併しています。
(3)クリニカルシナリオ3(CS3)
血圧低値群(収縮期血圧<100mmHg)です。このシナリオでは低灌流の徴候が優位であり、肺うっ血、全身浮腫とも少ないです。多くの患者は進行した終末期心不全の状態を呈します。
(4)クリニカルシナリオ4(CS4)
急性冠症候群に伴う急性心不全群です。急性冠症候群のエビデンスはすでに豊富であるため、他の原因による心不全から除外し、急性冠症候群に対する治療が求められます。
(5)クリニカルシナリオ5(CS5)
右室不全による急性心不全群です。肺高血圧または右室梗塞により発症し、三尖弁逆流を呈します。通常肺うっ血は認めず、左心系は低灌流を呈します。この病態による心不全は他の病態による心不全と管理が異なるため別のシナリオに分類されています。
□MebazaaらはCSを用いた急性心不全の患者管理のアルゴリズムを図のように提唱しています。ここではCSを用いた急性心不全超急性期の初期対応について概説します。
図 超急性期の急性心不全患者管理のために提案されたアルゴリズム(文献1)2)より引用作成)
□急性心不全が疑われる患者に接触したら、気道、呼吸、循環に注目して第一印象での重症度を評価します。直ちに心電図、酸素飽和度のモニタリングを開始して、バイタルをチェックします。
□酸素投与を開始し、必要があれば非侵襲的陽圧換気を導入します。非侵襲的陽圧換気は、気管挿管回避率や心不全死亡率の改善が示されているのみならず、肺うっ血に対する根本治療法であることから、心不全に対して最初に試みられるべき治療法と位置付けられており、必要があれば可能な限り早期からの導入が推奨されています。当然、救命のため気管挿管、人工呼吸管理が必要な場合は躊躇せず導入します。
□身体診察とポイントを絞った病歴聴取を行い、あわせて12誘導心電図、胸部X線写真、血液検査を行います。ここまでの結果からCSを決定し、それぞれのCSに定められた初期治療を迅速に導入します。
□初期治療で最も重要な薬剤は血管拡張薬であり、硝酸薬スプレーが手軽に使用できます。血管拡張薬は即効性があり、収縮期血圧が110mmHg以上あるCS1、CS2、 CS4(右室梗塞合併を除く)で使用が推奨されています。一方、ループ利尿薬は心不全の根本治療の中核をなす薬剤ですが、初期治療では全身性体液貯留所見がある場合のみに使用すべきとされています。救急の現場で遭遇する頻度はCS1が最も高いためループ利尿薬の使用優先順位は下がることが多いです。
□CSを用いると迅速に初期治療が導入でき、症状と血行動態の早期改善に有効です。初期治療導入後は身体診察やバイタルチェックを繰り返して治療効果を判定しつつ、可能な限り早期に心エコー図検査を行い、Nohria-Stevensonの分類などを用いながら病態把握に努め、治療の軌道修正を行い根本治療につなげていくことが重要です。
参考文献
1)Mebazaa A, et al: Practical recommendations for prehospital and early in-hospital management of patients presenting with acute heart failure syndromes. Crit Care Med, 36: S129-S139, 2008
2)日本循環器学会:急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
(http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf)
回答:高橋 智弘
検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。
検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。