日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 不整脈に関するQ >元来元気な方が発作性上室頻拍を生じて来院されました。どういう治療選択がありますか
不整脈 Question 24
□発作性上室頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia; PSVT)とは、突然始まり突然停止することが特徴である心房、洞結節、房室接合部が関与する規則的な頻拍の総称です。
□PSVTにはWPW症候群を代表とする房室リエントリー性頻拍(atrioventricular reentrant tachycardia; AVRT)、房室結節二重伝導路(速伝導路と遅伝導路という機能の異なる伝導路)を介しておこる房室結節リエントリー性頻拍(atrioventricular nodal reentrant tachycardia; AVNRT)が90%以上を占め、そのほかに洞結節リエントリー性頻拍や心房頻拍が含まれますが、通常心房細動と心房粗動は含めません。
□PSVTは器質的心疾患のない元来元気な方が85%を占めます。突然始まる動悸発作を主訴に来院され、その他、頻拍による血圧低下が原因のふらつき、めまいを訴えることもあり、疲労、飲酒、運動、ストレスなどで発作は誘発されやすくなります。発作頻度は数年に1回の頻度から月に何度も生じることもあり、発作の持続時間は数分から数時間持続し突然停止します。発作頻度と持続時間は時間の経過とともに増加、延長していくことが多いと言われています。
□動悸発作時、非発作時ともに心電図を記録することは重要です。頻拍中の心電図はRR間隔が規則正しい、心拍数100~220回/分の頻拍で、洞調律と同様のQRS波形を呈しますが、頻拍依存性の心室内変行伝導、副伝導路の存在によりQRS波形が広くなることがあります。
□頻拍中の逆行性P波の位置にて機序の推定ができることがあります。通常型AVNRTの場合、逆行性P波はQRS波の中に埋没して見えないか、QRS波の終末部に認められ、AVRTの場合はQRS波からST上行部にかけて逆行性P波が認められることが多いです。また逆行性P波が後続するQRS波に近いときはlong RP’ tachycardiaと呼ばれ、非通常型AVNRT、slow Kent束によるAVRT、心房頻拍のことがあります。
□また洞調律時の心電図にてデルタ波が認められれば顕性WPW症候群の発作が最も疑われます。しかしデルタ波が認められないからといってWPW症候群でないとは言い切れません(非顕性WPW症候群)。発作性の動悸があるが発作時の心電図が記録できなかった場合はホルター心電図を施行し、それでも記録できない場合は動悸発作時にすぐ病院に来院してもらい発作時の心電図を記録するように努力してください。
□患者さんが頻拍中に来院された場合、Valsalva法(息こらえ)や冷水刺激(冷たい水に顔をつけて我慢する)などの迷走神経刺激手技を施行するか、薬物療法を試みてください。以前は眼球圧迫や頸動脈マッサージを行うこともありましたが、網膜剥離や脳梗塞などの合併症の報告があり行わないほうが無難です。
□薬物療法としてはアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate; ATP)の急速静注、ベラパミルの点滴静注があります。
□ATPは頻拍を短期間で停止させることができますが、気管支喘息の既往がある場合に使用できず、冠攣縮性狭心症を誘発することもあります。ATP急速静注後、20~60秒にかけて頭がカーッと熱くなり息が苦しくなるので静注前に患者さんによく説明しておく必要があります。半減期が1分以内と短いですが、まれに洞停止、房室ブロックが遷延し心臓マッサージが必要になることもあるので急速静注の際は0.1mg/kgからスタートし最大0.3mg/kgまでとします。
□ベラパミルは5mgを3~5分かけて点滴静注します。ATPに比べ気を使わず使用できる利点がありますが、血圧が下がることがあるため90mmHg未満のときは使用できません。迷走神経刺激や薬物治療で停止しなかった場合は気道、静脈路を確保し静脈麻酔を施行後、直流通電(20~50J、二相性の場合は半分の出力で同期通電)を行います。
□非発作時は、発作の回数が少なく短時間で停止し患者さんのquality of life (QOL)が損なわれない場合、予防投与は行わず経過観察とします。しかし動悸発作が再発したときのために迷走神経刺激法を伝授し、それでもなお発作が持続したときのために頓服薬としてベラパミル 80mgとプロプラノロール20mgを同時に内服するように処方します。
□発作回数が多く、持続時間が長い場合は予防的治療を行います。薬物療法としてはベラパミルやβ遮断薬、効果が弱ければI群抗不整脈薬を単剤、もしくはβ遮断薬と併用します。しかし顕性WPW症候群の場合、心房細動を合併したときに房室結節の伝導を抑制すると副伝導路を介する順伝導が促進され心室細動様に心室レートが増加する危険性があるためベラパミル、β遮断薬、ジギタリスは投与しないようにします。
□発作を繰り返しQOLが損なわれる場合、根治療法であるカテーテルアブレーションが適応となりますので不整脈専門医研修施設に紹介してください。カテーテルアブレーションは成功率が90%以上と高く根治できることからお勧めですが、カテーテル穿刺部の血腫、感染、完全房室ブロック、心タンポナーデ、血栓塞栓症、脳梗塞、鎖骨下静脈からカテーテルを穿刺する際には気胸等の合併症が少なからず起こり得ることを説明する必要があります。
□薬物療法による治療はあくまで対症療法であるという点、薬による副作用の問題、長期服用による経済的観点などからカテーテルアブレーションに伴う合併症の可能性を加味したとしてもカテーテルアブレーションが第一選択となります。
回答:安達 太郎
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