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診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

不整脈 Question 14

一日総心拍数120,000回の心房細動は治療すべきですか

心房細動の患者さんを診察した場合、まず抗凝固療法の適応をCHADS2 スコア(心不全既往、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中の既往)およびCHADS-VASc スコア(CHADS2スコアに心、血管疾患の有無、性別を加えたスコア)にて、いずれかが当てはまる場合は考慮し、同時にレートコントロールが必要かどうかを判断することになります。そして最後に洞調律維持治療の適応になるかどうかを決めていきます。

この患者さんの場合、抗凝固療法の必要性を決定した後の判断ということでお話しさせていただきます。現在持続性心房細動で心不全のない無症候の方ですので、希望が無い限り通常は洞調律復帰への治療は選択しないということになります。レートコントロールに関しては、まず平均心拍数を計算すると一日総心拍数120,000回は約83回/分となります。

従来、心房細動の目標心拍数は毎分70~90回と考えられていましたが、十分なエビデンスがありませんでした。2010年に発表されたRACE-Ⅱ試験(N Eng J Med 362:1363-1373,2010)はこの問題に対する解答を得るために、安静時心拍数毎分80回未満の厳格なコントロール群と毎分110回未満の緩やかなコントロール群の2群でその予後を比較しました。

その結果、主要エンドポイントである総死亡、心不全入院、脳卒中の発症において両群で有意差はなく、緩やかなコントロール群の方がイベントの発症が低い傾向が認められました。

これを受けて2013年に改訂された日本循環器学会の心房細動薬物治療ガイドラインにおいて、レートコントロールの目標心拍数は毎分110回未満で開始し、自覚症状や心機能の改善が認められない場合は毎分80回未満へより厳格なコントロールを行うように示されています(クラスⅡa基準)。

RACE-Ⅱ試験でも緩やかなコントロール群では1年後以降は平均86/分となっていたようですので、有症候で100を超える心拍数で経過を見られたわけではないようです。しかし、この方の場合は無症候であり、たとえ心拍数がやや速めだったとしても基本的にはレートコントロール薬剤の追加は必要ないと考えられます。

ただし、もしこの方の心機能が低下している場合は別に考える必要があるかもしれません。RACE-Ⅱ試験では心機能低下例の割合は15%程度ですから、低左心機能症例を反映した試験ではありませんし、β遮断薬でのレートコントロールには心拍数以外の効果が関与している可能性も考えられるため、至適心拍数に関して2010年に発表されたSHIFT試験(Lancet 376:886-94, 2010)を参考にして考えてみます。

SHIFT試験はIf阻害剤であるイバブラジンを用いた試験ですが、心不全症状を有する左室駆出率35%未満、安静時心拍数毎分70回以上の症例に対してイバブラジン群はプラセボ群に比べ有意に心不全悪化による死亡、入院ともに少ないことが示されました。

 この試験は洞調律患者が対象で心房細動患者を反映した試験ではありませんが、他にも高い安静時心拍数と予後悪化を示した多数の観察研究があるため心機能低下例と高血圧や冠動脈疾患などの疾患を有している場合は、個々の症例をフォローしながら慎重に検討する必要があると考えられます。

Only One Message

自覚症状や心機能低下のない心房細動では緩やかな(<110/分)なレートコントロールで大丈夫

回答:加藤 律史

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