日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 不整脈に関するQ >心房細動でワルファリンを使っている患者さんが内視鏡検査を受けることはできないのですか
不整脈 Question 9
□結論を先に述べますと、生検を含む内視鏡検査のみであれば、ワルファリンを休薬することなく検査が可能です。
□実地臨床においては、抜歯、内視鏡検査や手術に際してワルファリン休薬の可否についての問い合わせをしばしば受けると思います。これまで抜歯や内視鏡検査のためにワルファリンを一時休薬した場合に血栓塞栓症が発生することが報告されており、約1%の発生率と報告されています(Jaffer AK et al. Am J Med 2010; 123: 141-50)。
□こんなに危険性が高い理由としては、内視鏡検査の前処置による脱水に加えて、ワルファリンでは一旦中止して再開した場合に一時的に通常よりも血栓が産生されやすくなるという、一種のリバウンドが生じるからと言われています。つまり、ワルファリンを中断することは、内服していなかった患者さん以上に脳塞栓発症のリスクを高めてしまいます。このため、容易に圧迫止血が可能な抜歯に関しては、ワルファリンを休薬せずに抜歯することがすでに一般的に行われています。
□では、圧迫止血が困難な消化器内視鏡検査ではどうなのでしょうか。従来、内視鏡検査における生検の場合、ワルファリンを3~4日間中止して、ワルファリンの効果判定指標であるPT-INRが1.5以下になったことを確認してから生検を施行することが一般に行われていました。
□このため、実臨床の場ではワルファリン使用中の患者さんでは、まず観察のみの内視鏡検査をワルファリン継続したまま施行し、検査結果から生検が必要と判断された場合には、入院後にヘパリン置換を行って再検査を行っていました。このような煩雑な前処置のために内視鏡検査施行が躊躇され、結果として消化器疾患の早期発見の妨げになることがしばしばありました。
□また、ヘパリン置換なしでワルファリンが休薬され、脳塞栓発症リスクに暴露されるケースも少なくなかったと思います。
□しかし、近年ワルファリン内服継続下で内視鏡生検を行ってもPT-INRが治療域内に留まっている限りは、生検後の出血は増加しないことが報告されました(Gerson LB et al. Gastrointest Endosc 2010; 71: 1211-7)。さらに、本邦から抗血栓薬内服継続中の生検101回のうち、2週間以内の出血イベントは認めなかったことが報告されました(Ono S et al. J Gastroenterol 2012; 47: 770-4)。
□これらの報告に基づいて、日本消化器内視鏡学会から抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインが出されました(藤本一眞ら. 日本消化器内視鏡学会雑誌 2012; 54: 2075-102)。このガイドラインよると、生検程度の処置までであれば治療域内のワルファリン内服継続中の検査が可能です(図)。このことは、新規抗凝固薬であるダビガトランにおいても同様です。
図 抗凝固服用者のフローチャート(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン:日本消化器内視鏡学会より)
□ここでのワルファリンの治療域内とは、70歳未満でPT-INR 2.0~3.0,70歳以上でPT-INR 1.6~2.6です。出血低危険度の内視鏡とは、生検、バルーン内視鏡、クリップ治療などであり、出血高危険度内視鏡とは、ポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術などを指します。
□ただし、ワルファリンに加えて抗血小板薬も内服している際には、症例に応じて慎重に対応するように勧められています。
回答:篠原 徹二
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