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不整脈 Question 8

新しい抗凝固薬が出てきました。ワルファリンを使っている患者さんは、そのまま使い続けていいのですか

わが国における 7000 例の心房細動患者を対象とした J-RHYTHM Registryでは (Ogawa et al. Circ J, 2009; 73: 242-248)、塞栓症の低リスク症例が大多数にもかかわらずワルファリン使用は高率でした。その結果、脳梗塞の発症率は 2.3 % (平均観察期間578日) と低率になりました。

ワルファリン療法を行う場合は、70 歳未満では PT-INR 2.0~3.0、70 歳以上では PT-INR 1.6~2.6 でのコントロールが推奨されています.

一方、ワルファリンは出血性合併症、特に頭蓋内出血や消化管出血のリスクを増大させます。脳内出血の危険因子は、75 歳以上の高齢者、高血圧、脳卒中の既往、そしてワルファリン療法の強度といわれています (Hart RG, et al. Stroke, 2005; 36: 1588-1593)。

肝機能障害や重症右心不全例などに伴う肝うっ血例では、ワルファリンに対する反応例が増強し出血リスクが増します。低栄養やネフローゼ症候群などの低アルブミン血症では、遊離型ワルファリンが増加し、抗凝固作用が亢進することが知られています(奥村ら. 脳卒中予防のための心房細動管理マニュアル, 2013; 医歯薬ジャーナル)。

出血性合併症以外の制約としては、ビタミンK を多く含む食物の摂取制限、長期投与による骨粗鬆症のリスク、頻回の血液凝固モニタリング、他剤との相互作用といった負の側面があり、こうした問題点を解決すべく新規経口抗凝固薬が開発されました。

新規抗凝固薬は投与量が一定で効果発現も早く、食事の制限もありません(不整脈Q7参照)。注意すべき併用薬はありますが、効果の増強や抑制作用が少ないことは安定した服薬治療の一助となるでしょう。服薬中止による効果消失までの時間はワルファリンに比較して短く、服薬再開後の作用立ち上がり時間が早いこともメリットです。

小規模の手術に対する新規抗凝固薬の継続あるいは、短期休薬(術前2日,術後1日)はほとんどの場合において安全であることが報告されました(Jan Beyer-Westendorf et al. European Heart Journal, 2014)。しかしながら内視鏡検査や抜歯などの検査では、ワルファリン同様、安易に抗凝固療法を中止すべきではありません。出血リスクを考慮する場合、24時間前の投与中止が標準となりますが、検査終了後は速やかな再開をお薦めします。

新規抗凝固薬のデメリットは、高度腎機能障害例、消化管出血歴を有する、抗血小板剤を2剤以上服薬している、などの患者さんでは出血リスクが高いことです。時にAPTT が目安となることがありますが、INRのような決定的な効果指標がなく、易出血傾向や服薬コンプライアンスを客観的に捉えることができません。

ワルファリンと異なり、現時点では直接的な拮抗薬が存在しません。致死性あるいは重症出血を合併した場合には、遺伝子組み換え第VII因子製剤やプロトロンビン複合体製剤の投与を考慮することになります。転倒しやすい、高血圧を有するなど、出血リスクを十分に考慮し、ワルファリンとの使い分けを行う必要があります。

ワルファリンの投薬が好ましい症例
「循環器病の診断と治療に関するガイドライン.心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」 (班長: 井上博)より作成

僧帽弁狭窄症、人工弁移植後は塞栓症のリスクが高く,PT-INR 2.0~3.0 でのワルファリン療法が推奨されます。現時点では,弁膜症性心房細動に対する新規経口抗凝固薬の適応はありません。
70 歳以上の高齢者、腎機能障害例においては、新規経口抗凝固薬の方が出血性合併症は多いため、ワルファリンでは血液凝固モニタリングを行いながら安全に投与することが可能です。
妊娠第14週以降は、血栓予防の効果の観点からワルファリン療法への変更が推奨されています。ただしワルファリンは低分子で胎盤を通過するため,胎児奇形発生の恐れがあり,妊娠前期にはヘパリンまたは低分子ヘパリンへの変更が必要です.新規経口抗凝固薬の妊婦,授乳婦に対する臨床試験成績はなく,安全性は確立していません。

 

わたくし自身は、すでにワルファリン療法を行っている患者さんには選択肢をお話しし、変更希望がなければワルファリンを続行しております。実際のところ、不具合を感じていない患者さんに新規抗凝固薬のご説明をしますと、「薬価が高い。」「納豆はもともと嫌い。」「INRを見たほうが安心する」といった理由で、変更をお断りになられる方が多いです。

一方、痴呆などによる服薬コンプライアンス不良があり、家族のサポートが得られないときは、ワルファリンから新規抗凝固薬への積極的な変更をお勧めしています。

Only One Message

ワルファリンに慣れ親しんだ患者さんにとっては、新規抗凝固薬の魅力は乏しい……。

回答:網野 真理

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