日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 動脈疾患・脂質異常に関するQ >身体が痛くなる病気としてリウマチ性多発筋痛症というものが胸痛の鑑別となるそうですが、どういう病気ですか
動脈疾患・脂質異常 Question 6
□リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica: PMR)とは肩や腰周囲に疼痛を伴う炎症性疾患です。発症年齢はほぼ50歳以上であり、70代でピークを迎えます。また、男女比は1:2?3と女性に多く、家族内発症はまれです。発症は急性発症が多く、しばしば発症日の特定が可能です。
□主な症状は肩、腰周囲など四肢近位部の対称性の筋肉痛や関節痛です。疼痛は75-90%で肩、50-70%で腰周囲に出現します。また、他の随伴症状として、45分以上持続する朝のこわばり、非対称性の関節腫脹、倦怠感、食欲低下、体重減少、抑うつ、微熱などを自覚する場合もあります。
□病因は未解明ですが、関節リウマチやPMRの合併疾患として頻度が高い側頭動脈炎でみられるHLA-DRB1多型との関連を指摘する報告もあります。また、好発時期がMycoplasma pneumoniae、Parvovirus B19、Chlamydia pneumoniaeの流行時期に重なることから、感染の関与も示唆されています。
□血液検査ではCRP、血沈、IL-6、MMP-3など炎症反応の上昇を認めますが、他の膠原病のように疾患特異的な自己抗体やマーカーはありません。画像検査としては滑膜包炎の評価のため関節超音波検査やMRIが応用されており、特に簡便に施行できる関節超音波検査は後述する分類基準にも取り入れられています。近年、合併する側頭動脈炎を合わせて検出可能なFDG-PETの有用性も指摘されています。
□多くの場合、中高年の女性が急速に進行する筋や肩・腰周囲の疼痛を主訴に来院する疾患であり、症状が非特異的であることから診断に難渋することも少なくありません。
□では、一体どのように診断に近づくのでしょうか。以前はChuangら、Birdら、Healeyらによる診断基準が用いられてきましたが、鑑別診断に十分でなかったことから、2012年にEuropean League Against RheumatismとAmerican College of Rheumatologyによって新しい分類基準(Dasgupta B et al., Arthritis Rheum, 2012)が発表されました(表)。
表 European League Against RheumatismとAmerican College of RheumatologyによるPMR診断のための暫定分類基準 (Dasgupta B. et al., Arthritis Rheum. 2012 一部改変)
超音波基準を用いない場合は4点以上、用いる場合は5点以上をPMRと分類する。
□年齢50歳以上、両肩の疼痛、CRPおよび/または赤沈値異常の3項目を必須とし、他のPMRに特徴的な症状や所見がポイント化されました。また、必須項目ではないものの、初めて超音波検査の結果も基準に盛り込まれました。この分類基準の感度と特異度は、超音波所見を用いない場合にはそれぞれ68%と78%で、用いる場合は66%と81%と報告されています。
□また留意すべき点として、PMRの約20%に側頭動脈炎を合併し、側頭動脈炎患者の40?60%にPMRを合併することがあげられます。側頭動脈炎では失明の危険性があることから、PMRと診断した時点で頭痛、顎跛行、視力障害の有無などを確認し、その合併がないか評価する必要があります。
□PMRの治療は15?20mgのプレドニゾロンが第一選択ですが、プラセボと比較した臨床試験はまだありません。一般的に、ステロイド投与後数日で症状が消失し、1?2年間で漸減・中止できるとされます。一方で、プレドニゾロン15mgによる治療開始4週間後に症状が改善した症例は71%で、26週まで治療効果が持続した症例はそのうち78%にとどまったと前述した報告で示されています。さらに、長期間のステロイド使用には合併症が多いことから、他の免疫抑制剤の効果も検討されていますが、明確なエビデンスはありません。
□症状が肩の筋肉痛や肩関節痛のみであれば、狭心症との鑑別に難渋することもあるかもしれません。その際は、症状の持続時間や誘因の確認、心電図変化の有無などが両者の診断に有用です。
回答:加藤 武史
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