日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 動脈疾患・脂質異常に関するQ >しばらく歩行すると下肢に疼痛が現われる患者さんがいます。診断や治療の方向を教えてください
動脈疾患・脂質異常 Question 4
□この質問の症状は「間欠性跛行」と呼ばれ、それを来す疾患の鑑別を行うことになります。その代表的な疾患が、動脈硬化性疾患である「閉塞性動脈硬化症:Arteriosclerosis obliterans (ASO)」と整形外科的疾患の「腰部脊柱管狭窄症:Lumbar spinal canal stenosis (LSCS)」が挙げられます。
□これらの鑑別には、まず問診が重要です。下肢の疼痛は「両側性か片側性か」、「疼痛の部位はどこか」、「冷感などの症状をともなうか」、「姿勢による変化はあるのか」などの質問を行います。例えば、ASOであれば、疼痛は比較的、片側性で、疼痛部位はふくらはぎにあり、冷感を伴うことが多く、一方、LSCSであれば、両側性で臀部から下肢全体にかけて疼痛やしびれがあり、前屈位にて症状が緩和することが多いとされています。
□これらの診断には、下肢の動脈触知、すなわち足背動脈や後脛骨動脈の触知をすることが診察上、重要です。またASOでは、糖尿病、脂質異常症や高血圧などの動脈硬化の危険因子や脳血管障害や虚血性心疾患の合併が多くみられます。LCSCの診断法や治療に関しては、整形外科医にて行われるため、本稿では割愛させて頂きます。
□ASOを疑えば、次に足関節上腕血圧比(Ankle brachial pressure index:ABI)を測定します。ABIが0.9未満であれば、なんらかの虚血があると考えられます。間欠性跛行を来す状態であれば、一般的にはABIは0.4~0.7程度であるとされています。一方、ABIが1.4以上の場合は、透析患者や糖尿病患者など動脈の石灰化が著明な患者でみられ、やはり動脈の狭窄・閉塞を検索する必要があります。
□画像的な診断法としましては、超音波検査、CT血管造影(CT angiography: CTA)、MR血管造影(MR angiography: MRA)と血管造影があります。
□超音波検査は、造影剤を使う必要もなく、侵襲性が無い検査で、血管径や血流速度の計測や血流速波形の分析にて狭窄部位の同定などが可能な検査として有用ですが、検査を施行する医師や検査技師の技量に結果が左右される可能性があります。
□CTAは近年のCT技術の進歩により、小さな血管径の動脈まで解析や3D画像の構築などができ、本症の診断に汎用されている検査法です。ただヨード造影剤を使用するため、アレルギー、腎機能障害やビグアナイド系糖尿病薬の服用には注意を要します。
□MRAは造影剤を使用しなくても動脈の状態を把握することができますが、ガドリニウム造影剤を使用することでより鮮明な画像が撮れます。しかし、この造影剤も腎不全の患者では使用できません。
□血管造影は、カテーテルを介してヨード造影剤を直接動脈内に注入する検査で、より鮮明で狭窄/閉塞部位の情報が得られます。Digital subtraction angiography (DSA)を用いることで、骨などの陰影を処理し、血管をより観察しやすくすることができます。しかし、これらの検査の中で最も侵襲性が高い検査法となります。
□通常の診断の流れとしましては、ABIを測定し異常があれば、CTAによる精査を行い、最終的に治療方針などを決める段階にて、血管造影を行うことになります。
□治療法としましては、軽度の跛行であれば内科的治療が第一選択となります。すなわち、生活習慣の改善、運動療法や薬物療法にて治療を行われます。しかし、内科的治療でも日常生活が制限される場合や急速に症状が進行する場合は、血行再建術を行います。
□血行再建術には血管内治療(カテーテル治療)と外科手術(バイパス手術)があります。この治療選択は、現在、TransAtlantic-Inter Society Consensus (TASC) IIで提言された分類に基づいて行われます(表)。この分類で、Type AもしくはB 病変であれば、血管内治療を選択し、Type C病変は血管内治療あるいは外科手術のどちらを選択しても良く(最近は血管内治療を行う施設が多くなっています)、Type D病変は通常、外科手術が選択されることになります。
表 TASC分類
下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針Ⅱ(TASC Ⅱ)日本脈管学会編, メディカルトリビューン, 2007年より引用
回答:池田 聡司
検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。
検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。