日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > その他に関するQ >日常診療で出会う可能性があるのに、うっかり見落としてしまう危険な心電図所見にはどういうものがありますか
その他 Question 5
□まずは労作性の症状を訴える患者の安静時正常心電図です。正常が危険?と疑問に思うかもしれません。図1Aは新規発症の労作性胸痛で来院した患者の安静時心電図ですが、全くの正常と思います。しかし軽い運動負荷(4.6METsで2分弱)でST上昇を認め(図1B)、冠動脈造影で左冠動脈近位部に90%の狭窄を認めました。労作性の症状を安静時の検査だけで評価するのは危険という意味です。これは心電図以外の検査でも同じです。
図1
□次にわずかな胸部症状が残る胸痛患者のわずかなST変化です。冠動脈に亜閉塞(99%狭窄)がある患者でも、ベッドで安静にしていればほとんど症状がないこともよくあります。こういう時は“100%まったく胸がすっきりしてウソみたいに何ともないですか?”と聞きます。なんとなく違和感が残っていると答えた場合、わずかなST変化でも急性冠症候群、亜閉塞を疑います。
□以前の心電図があれば必ず比較してわずかな変化を見逃さないようにしましょう。この時U波にも注意を払うと良いです。U波は控えめな陽性波形が正常です。
□図2Aは繰り返す胸部絞扼感で緊急搬送された患者の安静時心電図です。わずかな胸部違和感が残っており、V4~V6に陰性U波(V4はⅡ相性U波)を認め、左前下行枝近位部病変を疑いました。冠動脈造影検査準備中に心電図はさらに変化していわゆるWellen's syndromeの波形(図2B)になり、冠動脈造影では予想通りの狭窄を認めました(図2C)。この様に僅かなST変化や、U波だけが虚血を示していることもありますので見逃さないようにしましょう。
図2
□ただし胸痛を伴わずT波終末から陰性U波に移行しているような場合は虚血が無くても血圧が高いだけよくみられる所見です。また、左回旋枝領域の心筋梗塞は心電図変化が生じにくく、専門医でも見落としやすいです。左回旋枝領域の心筋梗塞についてはこの場で詳細を述べるのは難しいので心電図の成書をご参照ください。
□その他、QT延長症候群は小児期から失神するような典型的な症例よりも、潜在性に軽度のQT延長を持ち、薬剤やその他の要因が重なってclinicalになるlow penetration症例の方が一般医が見ることは多いと思います。これも常にU波にも着目しているとQT間隔が気にかかるようになり見逃しが減ります。少しQT間隔が長めの印象があれば、QTを延長する作用のある薬(マクロライドや利尿剤等)の投薬は控えるべきでしょう。
回答:平位 有恒
検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。
検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。