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診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

その他 Question 4

心雑音でもっともありふれたものはなんですか

もっともありふれた、しかも重要な雑音は以下の三種です()。
収縮期か拡張期かは1音、2音を参考にしますが、実際は心音を同定しなくても、頻脈でも慣れてくると音調と持続から判断できます。三種の雑音をメロデイーとして覚えているからです。

図 心雑音の種類
羽田図.jpg

極めて小さい雑音は聞き落としやすく、体位や呼吸でも変動するので漠然と聴くのではなく、軽い呼気止め(患者だけでなく医師も)で耳を澄ますことが大切です。予測聴診といわれます。聴診は診断の方向性と病態の推移をみるためのものです。雑音の音量は体格の影響も受けますが、流量と流速(圧較差)に規定されます。

■1.大動脈弁硬化性雑音と狭窄性雑音

一般的には1音と2音から離れたダイヤモンド型駆出性雑音(ザーと表現)と言われます。弁硬化か狭窄かの違いは大動脈弁狭窄の程度です。狭窄には二尖弁やリウマチ性もありますが、硬化によるものの一部は加齢とともに進行し、弁開放運動は低下します。弁口部の最高流速が2m/秒(圧較差で16mmHg)以上になれば狭窄と言われます。まず、聴取されます。また、弁硬化では音量は小さいのですが、狭窄の程度が強くなると大きくなります。

最強点は胸骨右縁(第2肋間前後)から左縁、心尖部(胸骨左縁第5肋間前後の鎖骨中線付近)のいずれかです。心尖部に強いと以下の僧帽弁閉鎖不全との鑑別が難しくなりますが、大動脈弁狭窄では胸骨左縁や右縁でも聞かれやすい(放散する)こと、また、雑音の持続が短いことが参考になります。

60歳以上の患者さんでは聞こえることを前提に聴取すべきです。この硬化性雑音はもっとも頻度の高い雑音です。20-30%とする報告もあります。聞こえれば心エコー図検査で最高流速を確認しておくべきです。いつの間にか大動脈弁狭窄症に進展していることがあるからです。

■2.僧帽弁閉鎖不全

原因は多彩ですが、頻度的には多くありません。心尖部付近が最強点となり、左側臥位でより大きくなります。左室と左房の圧較差が大きいこと、駆出血流よりも逆流量の方が少ないことから音調は大動脈弁狭窄症よりも高調(シャー)です。また、2音まで続く持続の長い雑音となり、ときに3音が聴取されます。

高度逆流では駆出血流が減少するので胸骨左縁では2音分裂が目立つようになります。中等度以上の器質的な弁膜症では聴取することがほとんどです。最近、話題の弁そのものには異常のない機能性僧帽弁閉鎖不全症では雑音は聴取しないことが多く、あっても弱いのが特徴です。

■3.大動脈弁閉鎖不全

胸骨左縁で、2音から続く高調な(シャー)減衰性雑音です。聴取すればまず95%以上の確率で本症と診断されます。座位で聞かれやすいと言われています。胸骨下縁、右縁や心尖部近くで聞かれることもありますので聴診の際は上記三か所を忘れてはなりません。付随する駆出性雑音は聴くことも、聞かないこともあります。

最近はカラードプラ―装置の感度が上がり、健常高齢者の大動脈弁逆流シグナルは高頻度に観察されますが、聞こえなければ治療の対象にはならないことが多いようです。小さくても聞こえれば“大動脈弁閉鎖不全”と診断します。原因と治療方針を検討しなければなりません。大動脈弁閉鎖不全と言ってもきわめてまれな肺動脈弁閉鎖不全や冠動脈婁を否定できないので心雑音は最終的には心エコー図・ドプラー検査で診断すべきものです。


他にも数多くの雑音があります。最終診断は心エコー図検査です。だから、聴診は不要というわけではありません。手軽な聴診は早期診断の糸口になるだけでなく、心エコー図所見の読影を深め、誤認防止に貢献します。

上記、三種の雑音は初診で、あるいは心症状が出現したときははつねに聞き分ける習慣をつけるべきです。雑音がなければ“なし”と記載すべきです。“記載がない=聞いていない”、ことです。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

正常を数多く聞いていれば異常がわかる。診断確定前後の聴診が熟達の秘訣である。惰性的聴診には意味がない。

回答:羽田 勝征

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