日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 虚血性心疾患に関するQ >時々胸痛を訴える患者さんがいます。臨床像から異型狭心症かどう判断すればいいのですか
虚血性心疾患 Question 8
□狭心症は、心筋が冠動脈から十分な血液を供給されず、虚血状態となった結果として症状が出現する疾患です。症状としては胸痛が多いものの、胸部違和感、圧迫感等の場合もあります。また肩痛や歯痛等、胸部以外に症状が出現することもあり、症状の出現部位やその性状のみから狭心症と診断するのは困難です。
□狭心症として典型的なのは、運動等の労作により心臓に負荷がかかり上記のような症状が生じる、いわゆる労作性狭心症です。しかし、実際には労作とは関係なく安静時に症状が生じるタイプの狭心症もあります。異型狭心症は、このように労作とは関係なく安静時に発作が生じる狭心症として知られています。
□狭心症は、その病因を冠動脈に有しています(図)。冠動脈の動脈硬化が進行すると内腔に狭窄をきたします。すると労作等により心筋の酸素需要が増大した際に十分な血流を供給できなくなり、心筋に虚血が生じます。その結果として各種胸部症状が出現するのが労作性狭心症です。それに対し、有意狭窄が存在しない部位において冠動脈に攣縮を起こして高度狭窄が生じると、心筋負荷の有無にかかわらず心筋に虚血が生じます。これが異型狭心症です。
図 狭心症
□異型狭心症は通常器質的異常を有さず発作時にのみ冠動脈内腔の狭窄をきたすため、無症状時の各種検査にて異常を指摘するのが困難です。そこで検査にて異型狭心症と診断するためには、発作時の心電図を記録するか、発作を誘発するか、いずれかが必要となります。前者としてはHolter心電図、後者としては薬剤負荷試験を含めた心臓カテーテル検査が代表的な検査です。ただし、いずれの検査も確実に異型狭心症と診断できる保証はなく、冠動脈に器質的狭窄を有する労作性狭心症に比べて検査のみにて診断するのが困難となります。
□異型狭心症と診断するにあたり一番重要なのは、発作の状況を詳細に確認することです。特に発作の出現する時間帯は重要です。異型狭心症の特徴として、安静時胸痛が夜間から早朝に出現しやすい傾向があります。もちろん日中に発作が出現することもあり、それだけをもって異型狭心症を否定することはできません。しかし、日中に出現する胸痛発作よりも夜間から早朝に出現するものの方が、より異型狭心症である可能性が高い印象があります。したがって、問診の際には発作が出現しやすい時間帯を確認するのが肝要です。
□また狭心症の場合、通常は発作緩解に即効性の亜硝酸薬投与が有効です。その点を利用し、発作時に即効性亜硝酸薬を使用してもらうことが診断の補助になることがあります。問診等から異型狭心症の可能性を疑った場合、試しに即効性亜硝酸薬を処方してみます。そして次の発作出現時に使用してみてもらい、発作緩解までの時間が短縮する等の有効性を認めた場合、より異型狭心症である可能性が高くなります。
□ただし、この方法には注意点もあります。通常即効性亜硝酸薬は使用後数分のうちに薬効が発揮されます。したがって、「使用後30分程経過したら症状が改善した。」といわれたら、即効性亜硝酸薬は有効ではなくむしろ自然緩解したと判断するのが妥当でしょう。このように、亜硝酸薬の有効性を自ら判断することが重要です。
□また亜硝酸薬はその薬効からして血圧低下や頭痛等の副作用があり得ます。また緑内障等亜硝酸薬を使用しづらい症例も存在します。処方にあたってはその妥当性を評価し、さらに患者本人にも考え得る副作用について説明しておく必要があります。
□異型狭心症には通常冠動脈に器質的異常は存在しないと記載はしましたが、実際のところはその発症の機序として冠動脈内皮の機能異常が指摘されています。また、冠攣縮を生じる部位がやがて器質的狭窄に移行する可能性も示唆されています。したがって、疑わしい症例のなかから異型狭心症の症例に対して正しい診断をつけ、冠攣縮予防の投薬治療を行いつつその後の経過観察を継続することが重要です。
回答:杉下 靖之
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