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虚血性心疾患 Question 4

バイアスピリンもプラビックスも抗血小板薬に分類されますが、両方が投与されている患者さんがいます。どうしてですか

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の治療では経皮的冠動脈形成術(PCI)が選択されることが多いですが、そのほとんどの場合でステントが留置されます。バルーン拡張術と比べると再狭窄を低く抑えられること、さらに冠動脈解離による急性閉塞を回避できることからステント留置はPCIの標準治療となっています。

ところが初期のステント留置術では20%程度の高い確率でステント血栓症が発生し(N Engl J Med 1991;321:13)、ひとたびステント血栓症を発症すると致死率も高いことが問題となったため、予防のためにアスピリン、ジピリダモール、ヘパリン、ワーファリンなど様々な抗血小板薬、抗凝固薬が使用されていました。しかしアスピリンとワーファリンを併用しても14日目までに3.4%の閉塞、4.9%の出血性合併症が生じていました(N Engl J Med, 1994;331:496)。

1998年のSTARS試験(N Engl J Med, 1998;339:1665)においてアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬であるチクロピジンによる抗血小板剤二剤併用療法(Dual antiplatelet therapy: DAPT)がアスピリン単独およびアスピリン+ワーファリンと比較して30日までのステント血栓症を有意に抑制すること(0.5% vs 3.6% vs 2.7%)が証明され、DAPTはステント留置後の血栓症予防の標準治療となり現在に至っています。

そして肝機能障害、顆粒球減少症、血栓性血小板減少性紫斑病などの副作用が問題となっていたチクロピジンに代わって、現在では副作用の頻度が少なく、初期負荷量投与で早期に効果を発揮するクロピドグレルが標準的に使用されています。また最近ではプラスグレルも上梓され、早期からの血小板凝集抑制作用が期待されています。

ベアメタルステントの時代はDAPTの期間は1ヶ月程度で、その後はアスピリン単剤処方が一般的でしたが、薬剤溶出性ステント(DES)を留置した症例では、ステントストラットを覆う新生内膜の増殖が遅延するため、遅発性ステント血栓症が懸念されています。日本人を対象としたシロリムス溶出ステント留置患者のレジストリj-Cypher試験(Circulation. 2009;119:987)によると、ステント血栓症は1年で0.59%、2年0.78%、3年1.2%と頻度は低いものの増加傾向を認めており、DAPTも1年以上行う事がガイドラインでも推奨されています。

DAPTによる出血性合併症についてはどうでしょうか。日本人を対象としたBAT試験(Stroke 2010;41:1440)では抗血小板剤単剤と比較してDAPTおよび抗血小板剤とワーファリンの併用で高い出血リスクが示されています。漫然とDAPTを続けるのは避けるべきですが、消化管出血や頭蓋内出血のリスクに対してはプロトンポンプインヒビターや降圧治療で予防することが必要です。
前述のj-Cypherレジストリのデータからはステント留置後チエノピリジン系薬剤の6ヶ月を超える継続は死亡もしくは心筋梗塞に影響を与えない可能性が示されています。DESも第二世代、第三世代に入ってからは、ストラット厚の減少や生体吸収ポリマーの使用などでステント血栓症も少なくなっていると見られており、DES留置後のDAPT継続期間の短縮も検討されています。

Only One Message

冠動脈ステント留置後の血栓症予防のためには抗血小板薬2剤併用療法が必要だが、出血性合併症には注意が必要。

回答:伊達 基郎

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