講演4:心不全のリハビリテーション

順天堂大学保健医療学部理学療法学科副学科長・教授
日本心臓リハビリテーション学会副理事長
高橋 哲也氏

講演4で高橋氏は、心不全に対するリハビリテーションについて解説した。まずガイドラインにおける運動療法のエビデンスを考察し、続いて心臓リハビリテーションはフレイルの予後を改善するが、フレイル症例では特に退院後の生活も踏まえた心臓リハビリテーションが必要であることなどを指摘した。さらに、COVID-19流行時におけるオンライン遠隔心臓リハビリテーションの実際や有用性などについても紹介した。座長は小室一成氏(東京大学大学院医学系研究科内科学専攻器官病態内科学講座循環器内科学教授/日本循環器協会代表理事)が務めた。

ガイドラインからみた心不全に対する心臓リハビリテーション

「日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年 JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」では、「心不全治療の基本方針」のなかで、「いずれのステージにおいても、多職種による疾病管理および運動療法を行う。これは心不全に対する心臓リハビリテーションの概念そのものである」と述べている1)。また、米国心臓病協会(AHA)/ 米国心臓病学会(ACC)/ 米国心不全学会(HFSA)による「2022年心不全管理ガイドライン」では、ステージC心不全管理(活動、運動処方および心臓リハビリテーション)において「運動療法に参加できる心不全患者には、身体機能、運動パフォーマンス、QOLを改善するために運動療法(または定期的な身体活動)」を強いエビデンスに基づき(エビデンスレベルA)、強く推奨している(推奨レベル1) 2)。一方、 「心血管系疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン2021年改訂版」では、心不全患者で運動療法が禁忌となる病態・症状の箇所で、絶対的禁忌としては過去3日以内における自覚症状の増悪・不安定狭心症または閾値の低い虚血などを始めとした8項目、相対的禁忌としてはNYHA心機能分類Ⅳ度・過去1週間以内における自覚症状増悪や体重の2㎏以上の増加などを始めとした6項目が挙げられている3)。禁忌となるのは概ね、コントロール不良・重症・急性・活動性・悪化・高度といった言葉で形容される病態が占めているが、逆に言うならば、こうした病態でない限り心不全治療の一つとして運動療法の実施が必要となる。運動療法は有酸素運動が基本となるが、最近では骨格筋の筋力増強のためにレジスタンストレーニングも行われている。日本心臓リハビリテーション学会による「心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)」では、有酸素運動とレジスタンストレーニングの処方内容を、頻度(frequency)、強度(intensity)、持続時間(time)、種類(type)の面から記載している4)。この処方内容はその英文の頭文字からFITT原則と呼ばれており、各症例の心肺運動負荷試験の結果に基づいて処方されるが、その内容は次のようなものである。有酸素運動のF(週3~5回)、I(最高酸素摂取量の40~60%、嫌気性代謝閾値の心拍数、実測Karvonen法40~60%、Borg指数11~13)、T(5~10分×1日2回程度から、20~30分×1日2回まで徐々に増加)、T(トレッドミル、フリーウォーキング、サイクルエルゴメータ、シーテッドステッパー)。レジスタンストレーニングのF(週2~3回)、I(低強度から中等強度:6~8個の主要な筋群、上肢運動は1RM〈repetition maximum:最大反復回数〉の30~40%、下肢運動では50~60%、1セット10~15回反復できる負荷量でBorg指数13以下)、T(10~15回を1~3セット)、T(ウエイトマシン、ハンドウエイト、バンド/チューブ、自重エクササイズ) 4)
心不全患者に対する運動療法と心臓リハビリテーションの効果のメカニズムには、心拍出量増加・心室充満圧減少、自律神経バランス改善、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制、炎症性サイトカイン減少、インスリン抵抗性減少、筋線維組成・構造改善、内皮機能改善、呼吸筋力増加などが挙げられている5)。我々が想像する以上の多数の臓器に好影響を与え、それが生命予後の改善にも関連していると考えられる。
心不全のステージは、心不全リスクと症候性心不全に分かれる。前者にはステージAとステージB、後者にはステージCとステージDが含まれるが、ステージが進展するに伴い身体機能が右肩下がりに落ちていくという特徴がある6)。心臓リハビリテーションでは、このような身体機能の低下をいかに抑えるかが重要なターゲットとなる。このような右肩下がりの身体機能の低下は、最近、超高齢者で特に注目されているフレイルの概念とも合致する。

心臓リハビリテーションがフレイルを伴う急性心不全入院患者の予後を改善

フレイルは、加齢と共にさまざまな要因が関与して生じ、身体の多領域にわたる生理的予備力の低下によってストレスに対する脆弱性が増大し、重篤な健康問題(障害・施設入所・死亡など)を起こしやすい状態である7)。いわばフレイルは、健常から要介護状態に至る中間状態であり、適切な介入により再び健常に戻る可逆的な状態と言える3)
我々は、フレイルの重症度や心臓リハビリテーションは急性心不全患者の全死因死亡率に関係するとのデータも得ている。すなわち急性心不全による入院患者(3,277例)を対象とした後ろ向き多施設試験において、フレイルの重症度が軽症、中等症、重症と高くなるに伴い主要評価項目である全死因死亡+心不全による再入院の発生率も高くなること、心臓リハビリテーション群では非心臓リハビリテーション群と比べて全死因死亡+心不全による再入院の発生率が有意に減少し、軽度・中等度フレイル群で有意差があることなどを報告した8)。心不全患者では身体機能を高く保つことの重要性、退院後に外来の心臓リハビリテーションに通うことの有用性が、我々日本人のデータとして示されたことになる。同時に、心臓リハビリテーション群は非心臓リハビリテーション群と比べて、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全 (50%未満、HFrEF)だけでなく、LVEFが保たれた心不全(50%以上、HFpEF)でも全死因死亡+心不全による再入院の発生率が有意に減少したとのデータも得ている8)。心臓リハビリテーションがHFrEF 患者だけではなく、HFpEF患者にも効果があるというのは新データとして特に注目される。
高齢者心疾患患者において入院前のフレイル症例が、フレイルのまま退院すると予後不良であることは良く知られていた。ところが最近、入院前には身体機能レベルが保たれていた自立患者が心臓外科手術を受け、入院が原因の運動機能低下(Hospitalization-Associated Disability:HAD)のまま退院するとやはり予後不良である(再入院率が有意に高い)と問題視されている9)。「心血管系疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン2021年改訂版」においても、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)患者が回復途上のまま退院すると術後合併症や身体機能の面から問題があるとされており、そうした症例に対する心臓リハビリテーションの役割がフレイルの有無ごとに記載されている3)
心血管疾患を伴う高齢のフレイル症例に対しては、自立した生活機能の再獲得、要介護度の悪化の防止が重要となる10)。急性期における歩行距離の延長、安定期における有酸素運動による運動耐容能改善は心臓リハビリテーションの典型プログラムだが、高齢フレイル症例ではさらにフレイル対策として入院前の生活を意識したプログラムが必要とされる。すなわち入院前に自転車に乗ったこともない高齢者の場合、自転車エルゴメータを使った心臓リハビリテーションだけでは不十分である。また有酸素運動の効果は非常に高いが、身体機能の右肩下がりを強く抑制するために、有酸素運動+レジスタンストレーニング(筋トレ)も大事である11)。一方、できるだけ退院後の家での生活を考えた運動プログラムも必要であり、家庭では30㎝位の台に座ってそこから立ち上がっているのに、それ以上の高さの椅子や病院のベッドから立ち上がる訓練だけをしても十分とは言えない。
米国で実施された臨床試験でも、きめ細かなリハビリテーションが行われていた。60歳以上の急性非代償性心不全による入院患者(349例)に対するリハビリテーションの効果を検討した多施設無作為化単盲検対照試験REHAB-HFにおいて、運動機能レベルに基づいたリハビリテーション介入(一律の有酸素運動ではなく運動機能が低下状態のときは立ち上がり・歩行などのモビリティ、動的・静的バランスといった運動時間の割合を高くして、機能が改善すれば筋力トレーニングや有酸素運動の割合を高くするなど各身体機能領域を考慮)により12)、対照群(通常ケア群)と比べて主要評価項目である3カ月後の身体機能(Short Physical Performance Battery:SPPBで評価)が有意に改善するとの結果が得られ13)、我々に強いインパクトを与えた。そのサブ解析において、HFpEF患者ではHFrEF患者より身体機能・6分間歩行距離・QOL・再入院(全原因および心不全による)・全死因死亡の改善という大きな利益が得られており14)、リハビリテーションの効果として大変興味深い。

フレイルでは認知機能や社会的参加機能にも注意

当院においてフレイルマネジメントとして、問診(基本チェックリストによるフレイルのスクリーニング)、身体測定(筋肉量計測)、握力測定、運動耐容能測定、身体的虚弱の評価(SPPB)、心臓リハビリテーションなどを行っている。また、患者教育・疾病管理、カウンセリング、運動療法、栄養介入などにも取り組むなど、患者さんに包括的にアプローチしている。
一方、心臓リハビリテーションの概念・構成要素にも進歩が認められ、従来の概念である再発予防・長期予後改善、QOL向上、運動耐容能増加にフレイル予防と抑うつ改善が新たに加わり、従来構成要素である医学的評価、患者教育、運動療法、カウンセリングに疾病管理が新たに加わっている3)。疾病管理の視点からは、低リスク患者(若年、心機能良好、残存病変なし)では早期退院と二次予防への動機づけ、高リスク患者(高齢、多疾患合併)ではフレイル予防と介護度悪化の予防が重要である。こうした活動を多職種の医療チームで包括的に行うことで、心不全患者管理において最大限の効果が発揮できる。
なおフレイルというと身体機能に注目しがちだが、65歳以上の心不全による入院患者(1,180例)を対象とした前向き多施設コホート試験(FRAGILE-HF)では、筋力低下が中心の身体的フレイルが56.1%、認知機能低下が37.1%、独居や社会での孤立(社会的フレイル)が66.4%に認められ、フレイル領域数ゼロの患者と比べた時のフレイル領域数による1年間に複合評価項目(全死因死亡+心不全による再入院)を起こす倍率は、いずれか1つで1.38倍、いずれか2つで1.60倍、すべてで2.04倍だったという15)。フレイルでは身体の運動機能だけでなく、認知機能や社会的参加機能にも注意する必要がある。社会的フレイルに関しては、地域での見守りなども重要になると考えられる。

オンライン遠隔心臓リハビリテーションに期待

COVID-19流行時における心臓リハビリテーション実施に関するオンライン質問調査(37施設)では、入院個別リハビリテーションは100%の施設で実施されていたが、外来集団リハビリテーションは30%、入院集団リハビリテーションは51%の施設で実施しているだけだった 16)。このように人と人の繋がりが失われている中、我々は自宅で実施可能な心臓リハビリテーションプログラムの動画を作成した。またオンラインでの疾病管理と心臓リハビリテーション(Real-time communication)も開始した。これは退院後、指定した時間に病院と自宅を遠隔診療システム結ぶ遠隔支援である(1回20~30分、週1回、1カ月間)。また各種症状や医学的管理の必要についての確認という疾病管理だけでなく、運動時の心電図解析による運動継続の可否、入院中と同じSPPBを基本とした運動機能の確認と運動指導も行っている(図1)。我々は、高齢心疾患患者における外来リハビリテーション後の遠隔心臓リハビリテーションの実行可能性や安全性、有用性についても検討し、良好な成績を得ている17)
2019年12月には「循環器病対策基本法」が施行となったが、同基本法の中では各所に心臓リハビリテーションの重要性が明記されている。予定されている東京都循環器病対策推進計画の実行の際には、心臓リハビリテーションも大きな力を発揮したいと思っている。最後に本日の講演のまとめを示す(図2)。


図1 オンラインでの疾病管理と心臓リハビリテーション



図2 本日のまとめ(心不全のリハビリテーション)
文献 1)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年 JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
2) 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure.
Heidenreich PA,et al.:Circulation 2022;145: e895-e1032
https://www.ahajournals.org/doi/epub/10.1161/CIR.0000000000001063
3)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年改訂版 心血管系疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf
4) 日本心臓リハビリテーション学会.心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)
https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/shinfuzen2017_2.pdf
5)Bozkurt B,et al.:J Am Coll Cardiol 2021;77:1454-1469
6)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),2018
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
7)Fried LP,et al.: J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2004;59:255-263
8)Kamiya K,Sato Y,Takahashi T, et al.:Circ Heart Fail 2020;13:e006798
9)Morisawa T, Takahashi T,et al.:Geriatr Gerontol Int 2021;21:676-682
10)Ijaz N,et al.: J Am Coll Cardiol 2022;79:482-503
11)Cannataro R,et al.:Front Sports Act Living 2022;4:950949
12)Reeves GR,et al,:Am Heart J 2017;185:130-139
13)Kitzman DW,et al.:N Eng J Med 2021;385:203-216
14)Mentz RJ, et al.;J Am Coll Cardiol HF 2021;9:747-757
15)Matsue Y,et al.: Eur J Heart Fail 2020;22:2112-2119
16)Kida K,et al.:Circ Rep 2021;3:311-315
17)Saitoh M, Takahashi T,et al.:Cardiol Res 2022;13:57-64
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