脈を測って心房細動を早期発見
脳卒中や心不全の原因となる心房細動に注意しましょうここでは、なぜ心房細動を早期発見することが重要かを解説いたします。
心房細動とは
心臓は4つの部屋に分かれていて、上の2つを心房、下の2つを心室といいます。心臓は、心臓上部にある洞結節と呼ばれるところから、心筋を動かす電気信号が出されて、心房と心室の筋肉を交互に収縮させて拍動します。通常、成人の心拍数は1分間に60~100回程度、規則正しく拍動しますが、心房細動では電気信号が乱れて突然そのリズムが狂い、不規則に拍動している状態になります。
「細動」はぶるぶる細かく震えている状態をいいます。心房細動では、電気信号の乱れによって心房のあちこちが無秩序にまったくばらばらに収縮する、いわば心房がこきざみに不規則に震えている状態です。
主に脈が速くなる(頻脈)ことが多く、動悸や呼吸困難の症状が出ますが、逆に脈が遅くなる(徐脈)こともあり、その場合には息切れや疲れやすさ、失神などの症状が出ます。しかし、心房がこのような状態でも、心臓の他の部屋ががんばって拍動するため、約半数の人は無症状のまま気づかないといわれています。
脳卒中や心不全の原因に
心房がこきざみに不規則に震えている状態が続くと、心臓が全身に血液を送り出す効率が下がり、息切れ、疲れやすさを来す心不全の原因になります。心房細動の2割から3割の人が心不全になるといわれています。さらに心臓の中に血液が滞って固まりやすくなるため、血液の塊である血栓が心房内にできやすくなり、その血栓が動脈を流れて他の臓器に送られ、そこの血管を詰まらせると、その先の組織が死んでしまいます。血栓が脳に運ばれて脳の血管を詰まらせると、脳梗塞を起こします(図1)。これを心原性脳塞栓症と言いますが、大変重症な脳梗塞で、言葉や運動機能などが失われたり、死に至ることもあるため、早期発見と適切な治療がきわめて重要となります。心房細動のある人は、ない人の5倍、脳梗塞を起こす可能性があり、心房細動による脳梗塞の約半数が、死亡、寝たきり、要介護になるといわれています。(図2)
また、心房細動は認知機能の低下やQOL(生活の質)の低下の原因にもなり、脳卒中や心不全、突然死などが1.5~2倍発生し、生命予後が心房細動のない人より悪くなります(図3)。
高齢者に多い心房細動
心房細動は近年とくに高齢者に増えている病気で、患者数は2030年には100万人を超える見込みです。心房細動になっていても症状がない、無症状の人も約50%いるという報告もあります。まだ発見されていない人も含めると、その数はもっと多い可能性があります。また、心房細動は過度なストレスやお酒の飲み過ぎ、喫煙が誘発するリスクとなりますので、日頃の生活習慣に気を付けることも大切です。
さらに、心不全、高血圧、狭心症、心筋梗塞、弁膜症などの心臓の病気がある人や、肥満、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群の人などが心房細動になりやすいといわれています。
心房細動の治療
心房細動の治療で最も重要なのは、脳梗塞を起こさないように血栓ができるのを予防する抗凝固薬(血液サラサラの薬)の服薬です。 さらに、自覚症状を改善するための薬物療法として、心房細動を抑える治療(リズムコントロール)と心房細動はそのままで脈拍を遅くする治療(レートコントロール)があります。また、カテーテル・アブレーションといって、細い管を血管の中を通して心臓まで到達させ、異常な電気信号を出しているところを電気で焼き切ったり、冷凍して壊死させる治療法もあります。
最近では、血栓のできやすい心房の小部屋(左心耳)をカテーテルで閉鎖する治療法も行われています。
心房細動の早期発見
心房細動は放置しておくと脳梗塞や心不全を引き起こすため、早期発見、早期治療が大切です。心房細動を見つけるためには、自分で脈を測る検脈が有効です(図4)。どちらかの手(利き手ではないほうが測りやすいかもしれません)の手首を少し曲げると内側に皴が寄るので、そのあたりを反対の手の指先を当てて、脈が触れるところを探します。少し指を立てるとわかりやすいでしょう。脈の数やリズムを15秒ほど測ります。15秒の4倍が1分ですので、数えた脈拍数を4倍して、1分間の脈拍数を調べます。また、脈の間隔が規則正しいか、バラバラになっていないかを調べます。その結果、脈拍数が多かったり、バラバラだったりしたら、医療機関を受診して、心電図検査をしてみましょう。
また、ウェアラブルの器械や、スマートフォンのアプリ、血圧計なども活用できます。
普段から脈を測る習慣があれば、おかしいときにすぐに気づけますので、検脈を習慣にしてみましょう。
1)Youtube動画「脈の自己チェック」日本脳卒中協会