弁膜症の治療とは
心臓弁膜症は、自然に治ることはありません。患者さんの状態によって、薬で症状を緩和し経過観察を行う「保存的治療」や「手術治療」(弁形成術、弁置換術、カテーテル治療)があります。
弁形成術は弁を温存して、弁とその周囲の形を整え、機能を回復させる手術です。近年は技術の向上が著しく、僧帽弁閉鎖不全症では弁形成術が選択されることが多くなってきています。
弁置換術は弁そのものを人工弁などに換える手術です。人工弁には金属性(主としてチタン)の機械弁と、ブタの大動脈弁やウシの心膜で造った生体弁があります。それぞれにメリット、デメリットがあります。
機械弁と生体弁
機械弁は弁の寿命は半永久的ですが、血栓塞栓症を避けるための抗凝固療法としてワルファリン服用が必須です。生体弁では弁の寿命が10年から15年と言われていますが、術後一定期間を除き心房細動がなければワルファリンを止めることができます。
診療の手引きとして世界の様々な地域で、治療方針を標準化するための『ガイドライン』が発表されています。日本でも、いくつかの学会が協同して『弁膜症治療ガイドライン』が提案されています。日本では65歳を超えたら生体弁を勧めることが記載されています。一方、米国のガイドラインでは55歳から70歳の間は、生体弁と機械弁はどちらでも良いことが記載されています。
生体弁が劣化するまでの期間は改善され延長していますが、若くて活動性が高い患者さんほど、弁の寿命が短くなります。また、心房細動などを合併するとワーファリンが必要になります。
機械弁の欠点は血栓塞栓症リスク、それを下げるためのワーファリン治療が必要なことです。ワーファリンは効き過ぎれば出血リスクが高くなるため、厳密なコントロールが必要です。また、弁の構造的劣化がなくても、血栓塞栓症や感染で再手術が必要になる可能性があります。最近の論文では、機械弁のメリットは55歳までともいわれています。
一方、機械弁のメリットは、弁の寿命が長いことです。機械弁が用いられた多くの若年例では、ワーファリンを服用しながら良好な予後が期待できます。
なお、生体弁は、弁の劣化で交換が必要になった場合、TAVIを選択肢に入れることができます。実際に使えるかどうかは、その時の再評価が必要ですが、機械弁にはこの選択肢がありません。しかし残念ながら、生体弁に対するTAVI弁の長期の耐久性については、今のところ十分なデータはありません。
なお、いずれの弁を選択した場合でも、一定の感染症リスクがあることに注意が必要です。
カテーテル治療
一部のリウマチ性僧帽弁狭窄症に対しては、カテーテル(細い管)を使い、患者さんの負担の少ない手術が以前から行われています。この手術は太ももの付け根の血管からカテーテルを入れ、僧帽弁の狭窄部をバルーン(風船)で広げる経皮的僧帽弁形成術(PTMC)と呼ばれています。
また、最近では高齢者や外科手術の難しい僧帽弁閉鎖不全の患者さんを対象に、僧帽弁をクリップで留める治療も行われています。
大動脈弁膜症は、弁が薄く小さいため、従来は弁置換術しか選択肢がありませんでした。しかし近年では、大動脈弁狭窄症には、高齢者や手術の難しい患者さんを対象に、カテーテルを使ったTAVIという治療が行われるようになりました。この手術は太ももの付け根の血管からカテーテルを入れ、人工弁(生体弁)を留置するものです。
弁の移植
また、大動脈弁の弁置換術では、人工弁のほかに亡くなられた人から提供を受けた心臓弁(ホモグラフト)を移植することもあります。とくに感染性心内膜炎といった感染性の病気にはホモグラフトの移植が優れています。
もう一つは、大動脈弁のところに自分の肺動脈弁(オートグラフト)を使い、取った肺動脈弁のところはホモグラフトに置換するといった手術も行われています。この利点は、とくに子どもの場合、重要な大動脈弁が自分の組織で置換されるため、からだの成長に伴って弁も成長することです。
監修:渡辺弘之(東京ベイ・浦安市川医療センター ハートセンター長) 2022年3月
妊娠と期外収縮、小学校の心電図検診でQS型といわれた、不整脈と弁膜症で心不全に、狭心症の疑いなど、日本心臓財団は7,500件以上のご相談にお答えしてきました。