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微小血管狭心症ではないのでしょうか

57歳 女性
2018年5月21日
6年来の胸痛発作があり、このほど、カテーテル検査を受けましたが、血管の狭窄はなく、誘発試験でも血管攣縮は起こりませんでした。微小血管狭心症ではないか、と思い、主治医に相談しましたが、あまり取り合っていただけません。

回答

胸痛発作が狭心症であったのは間違いないのでしょうか。疑わしいというだけでカテーテル検査を行なったのであれば、狭心症ではなかったのですから、喜ばしいことです。しかし、胸痛があったときの心電図に明らかな心筋虚血所見があったのであれば、狭心症であったわけなので、カテーテル検査で異常がなければ、微小血管狭心症の可能性がある、と回答者も思います。相談に主治医がとりあってくれないのは、第一に胸痛が心筋虚血のためであるという確証がないのに気にして悩んでいる人が多いこと、第二に微小血管狭心症の診断のための操作が極めて煩わしく、しかも一定した手順が確立していないこと、第三に、治療薬は通常の狭心症の場合と同じで、予後にも心配はいらない、というようなことが現状であるためでしょう。

実は微小血管狭心症についての悩み、ご質問は大変、多いのです。これには財団ホームページのトピックス「微小血管狭心症をご存知ですか」(2016.9.20掲載)をご覧になることをお勧めしていますが、ここには解説として回答者自身の考えを紹介しておきます。

1.微小血管狭心症の成り立ち
微小血管狭心症は径が0.5ミリ以下の微小血管の構造的あるいは機能的異常のために起る狭心症です。内腔が狭くなって血流が阻害されるのではなく、拡張が障害されるための症状といわれています。血流の需要が大きくなったときに末梢の血管網の一部に十分に拡張できない箇所があると、周辺の拡張した血管網の方に血流を奪われて、虚血状態になります。これをスチール(盗流現象)といいます。狭心症治療薬である硝酸薬(ニトロ)は太い血管を拡張して血流を全体的に増加させるので、末梢にスチールを起しにくいとされています。しかし、狭心症治療薬としてよく用いられていたジピリダモールは細い血管を拡張させるアデノシン系の薬なので、ときとしてスチールを起して逆に狭心症発作を誘発させることがありました。微小血管の拡張障害には形態的な異常がみられる例もあるようですが、血管攣縮説が考えられたり、性ホルモンなどの液性因子あるいはセロトニンが関わるらしいなどともいわれています。

2.微小血管狭心症の診断
微小血管狭心症は通常の狭心症と同じく、心筋虚血のために起こる狭心症なので、胸痛があったときの心電図には心筋虚血所見がみられます。これが診断の大前提です。狭心症の心電図所見が間違いなくみられているのに、冠動脈狭窄がなく、冠動脈攣縮も起こらないのであれば、微小血管狭心症を疑います。診断確定のためには狭心症誘発法として前記のアデノシン薬を用いたり、心臓ペーシング負荷(ペーシング・カテーテルを挿入し、高い頻度でペーシングして心筋虚血を誘発する検査)を行ないます。心筋虚血の判定には冠静脈にカテーテル法を挿入して、心臓を還流して戻ってくる冠静脈血を採血し、虚血のための乳酸の産生を確定できれば、診断できます。定量的には薬物に対する冠血流増加予備能を測定する検査を行なうことがあります。

3.微小血管狭心症の治療
心筋の血流需要を高めないようにするためには交感神経遮断薬が有効です。血流増加を図るのであれば、太い血管の血流を改善する硝酸薬(ニトロ)がお勧めです。カルシウム拮抗薬は細い血管の拡張薬といわれていましたが、近年、微小血管の攣縮を抑制するといわれ、これもまた、勧められるようになっています。つまり、治療薬については、アデノシン系の薬を避ける他は通常の狭心症の場合とかわりがありません。これこそ特効薬といえるような薬はないのです。

4.微小血管狭心症の予後
予後は良好です。血流が途絶するための狭心症ではないからでしょう。心筋梗塞に移行するようなケースはみられていません。液性因子が関わっている場合であれば、それが是正されれば発作は起こらなくなります。

5.取り合ってくれないのは何故か
主治医が意欲的になってくれないのは、始めに申しましたような3つの事情があるためでしょう。実際のところは、第一の理由、つまり、胸痛が心筋虚血のためであるという確証がないのに悩んでいる人が多いというのが現実だからなのではないでしょうか。微小血管狭心症という病気は昔、原因不明の胸痛をシンドロームXと呼んだことに始まります。その後、その多くが実は逆流性食道炎であったことがわかり、胸痛時の心電図所見が重視されるようになりました。狭心症診断の第一の手がかりは実は古い歴史をもつ心電図検査にあるのだということを是非、ご理解いただきたいと思います。

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