心房中隔欠損症の手術・治療と妊娠・出産
中学生の頃、心雑音ありと健診で指摘があり、病院で検査の結果、心房中隔欠損症と診断されました。
現在、経食道心エコー検査で穴の大きさ16mm、肺高血圧はありません。医師からは「穴の位置が弁に少し近いからもしかすると手術が少し難しいかも」と言われました。
また、急を要する状態ではなく、状態としては中度。治療法は、胸骨正中切開、ポート・アクセス法、カテーテル治療、特に何もしない(経過を見る)が考えられるそうです。
現在、妊娠を希望しています。そこで、妊娠前に手術あるいはカテーテル治療をするべきか、それとも妊娠・出産後に手術あるいはカテーテル治療をしたほうがよいか迷っています。
手術のリスクや、妊娠・出産への影響、術後の不整脈について、教えてください。また、今は治療せずに妊娠・出産する場合のリスクも教えてください。
回答
心房中隔欠損症は最も多い先天性心臓病のひとつです。メールの内容では心房中隔欠損部を通しての血液逆流量(右心房から左心房への逆流量)が不明ですが、現在肺高血圧がなく、症状もまったくないようですので、仮に手術やカテーテル治療を受けなくても40?50歳くらいまでは無症状で過ごせる可能性が高いと考えます。
心房中隔欠損症では、40歳を過ぎる頃から心房細動などの不整脈が出現して症状が出てくることがあります。しかし、必ず出てくるというものではありません。また手術を受けても心房細動などの不整脈が出てくるのを完全に予防できるものでもありません。
したがって、この点については、今、手術やカテーテル治療を受けるべきかどうか確定的に言うことはできません。
心房中隔欠損症では妊娠に伴って肺動脈圧が上昇することがあります。実は心房中隔欠損症に伴う妊娠では、肺高血圧が出てこないかどうかが最も気になるところです。血液短絡量が少なければその危険性は小さくはなりますが,ないとはいえません。妊娠で肺高血圧が出現する頻度は高くはありませんが、もし出現すれば治療が困難になります。今手術をするとすれば、この危険性を防止することが大きな理由です。
心房中隔欠損症の手術のリスクはほとんどないと言ってもよいくらいです。しかし、開心術ですし、全身麻酔下での手術ですので、不慮の事故が生じないとは言えません。
手術で心房中隔欠損が塞がれれば肺高血圧の危険性は消失します。手術後は完全に回復すれば、妊娠はいつでもよいと思います。手術後の不整脈は頻度が高いものではありません。しかし、上述したように、中年になってからの心房細動などの不整脈の出現は必ずしも予防できないかもしれません。
手術しない場合のリスクについては上述しました。カテーテル治療は、まだ限られた施設でしか実施されていませんが、手技は数日の入院で終わるはずです。ただ、この治療法の長期予後はまだ不明です。
断定的に申し上げることは困難ですが、1)現時点では、手術などの治療を受けないで妊娠を選択して、肺高血圧の出現に注意しながら経過を観察する。もし肺高血圧が出現すれば、最悪では中絶も含めて対応する。あるいは、2)思い切って今手術あるいはカテーテル治療を受ける、のどちらかではないかと思います。もし、血液逆流量(右心房から左心房への逆流量)が小さければ、1)を選択しても良いのではないかと思います。