疾患別解説

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完全大血管転位の手術

1歳2ヶ月 女性
2004年5月25日

娘はこれまでに2回、カテーテルで心房に穴を開け、経過観察中です。
しかし肺高血圧症状が出てきたため(肺動脈狭窄の程度がそんなに著しくないため)、近々オペの可能性も濃厚になってきました。
娘の症状は難しく、手術方法を選ぶのが困難だと以前から主治医には言われてきました。
できればラステリをしたいんだが、心室の穴が小さめだから、できるかわからない。無理なら、セニングを行う。と説明がありました。

もっと寿命を延ばすような、何らかの手術なり処置、治療というのは本当にありえないのでしょうか?

回答

小さい年齢で、難しい手術をしなければならないこと、さらに、手術後も平均余命が少ない可能性が高いこと、将来的にも治療方法が無いかもしれないことなどなど切実な問題だと思います。

まず、今までの報告で、ラステリ手術とセニング手術で術後生存する率がどのくらい違うかについて考えてみます。
まず、完全大血管転位症の場合です。世界的な報告では、10年で、80%,20年で50%という報告があります。完全大血管転位症以外の疾患も含めると、10年で、76-92%,20年で58%と報告されています。また最近の日本の主な病院の患者さんのまとめですと、完全大血管転位症79人の患者さんの経過で、10年で、95%,20年で94%です。完全大血管転位症以外の疾患も含めた351人では10年で91%、20年で88%です。

セニング手術については、日本でのまとまった報告は、残念ながらでておりません。完全大血管転位症全体でみると、10年で、80%,20年で70%です。心室中隔欠損がある場合は、10年で、60%、20?25年で50%とされています。
このような手術後の生存率は、手術が最近になって行われるほど、明らかに良くなります。日本の方が成績がよいのは、日本の方が、より新しい時代に手術がなされたこととも関係あるかもしれません。セニング手術の日本の多施設でのデータはありませんが、成績は以前よりはるかに良いと考えられます。従って、平均寿命は、もっと長いと考えてよいと思います。

ラステリのセニングと比べたメリットは、主に、左室が全身の血液を担いますので、運動能力に優れること、心不全の頻度が比較的少ないことです。欠点は、人工的な導管を使いますので、再手術を行う必要があることです。(しかし、最近は、自分の組織を使ってカテーテルで直したりすることも行われるようになりました)また、心臓に細菌がついてしまう感染性心内膜炎にもなりやすい特徴があります。一方、セニングのメリットは、再手術が少ないことです。体育に参加はできるけれど、運動能力が劣ること、心不全になる傾向が強いことなどが欠点です。心配されている、右室機能不全は、従来考えられたよりも少なく、平均30歳で、5-10%程度に認める程度です。両者とも妊娠出産の報告がありますが、特に、セニング術後の報告は少なくありません。
ラステリの遠隔期の死亡原因は、再手術、心不全、突然死、心内膜炎などです。セニングは、突然死が多く、ついで心不全です。将来的な治療方法ですが、これらを予防することが必要です。心不全があると、不整脈が出やすく、突然死をおこす可能性が高くなります。そこで、主に心不全の予防治療が 大切になります。

<もっと寿命を延ばすような、何らかの手術なり処置、治療というのは本当にありえないのでしょうか?>というご質問に対して
セニングの場合です。現在、心不全を治療する薬剤が数多く開発されています。大人の心不全では、効果のある薬剤が少なくありませんが、先天性心疾患では今のところ大規模な研究がありません。しかし、北米を中心に、大人の心不全で効果のある薬剤の完全大血管転移患者さんへの予防投薬の研究が始まっています。手術的には、今のところ心臓移植以外は、難しいと考えられます。また、再生医療が進んできておりますので将来的には心不全を根本的に直せる可能性もあります。

いずれにせよ、重度の心臓病を持って生まれたお子さんは、どのような方法で治療しても一般の人と比べれば、平均余命は短いと考えられます。しかし、これまで述べたように、完全大血管転移患者さんについての多くの経験があります。従って、これらを生かしてゆくことにより、生存率は必ず向上します。患者さんの内科外科治療は日々進歩していますので、依然と比べれば、平均余命、生活の質ともに、飛躍的に良くなっています。セニング後でも、30年生存する可能性は、今のデータより遙かに良くなることが予想されています。術後も主治医と十分に話しながら、経過を見ていくことがもっとも大切と思います。

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