心房中隔欠損症の手術の術式選択
5歳の娘が今度、心房中隔欠損症の手術を受けることになりました。そこで、手術の切開場所について教えてください。
先生より「女の子なので正面切開とワキ切開を選択してください」と言われました。傷跡も気になりますが、それぞれの長所・短所を教えてください。ワキの場合は術後の痛み・成長発達過程での胸への影響、正面の場合は胸骨を切ることなどが気になっています。
回答
心房中隔欠損の手術は正面の皮膚を縦に切って、胸骨を縦に切って心臓に到達する方法、正面の皮膚を横に切って、胸骨は縦に切って心臓に到達する方法、及び腋を肋間に沿って切開して、胸腔を経て心臓に到達する方法などがあります。
まず手術の安全性ですが、心房中隔欠損の手術は手術死亡率1%に達しない最も安全な心臓手術ですが、それでも手術死亡が0というわけにはいきません。心房中隔欠損の手術は毎年全国で2,000例近く行われていますが、手術による死亡例が毎年数例出ています。すなわち手術死亡率が0.2ないし0.3%というのが最近の数字です。
どの切開方法の場合に死亡例が見られるかということについては、詳しい報告はありませんが、安全性という点からいうと正面切開がより安全であると思われます。何か事故が発生した時に対処しやすいからです。
術後の疼痛は、正面切開の場合のほうが一般には少ないと考えられます。また、術後の成長の過程で、腋から入った場合に胸郭に僅かな変形が見られる可能性は否定し難いと思いますが、正面から入った場合も胸骨が少し前方に突出してくることがあります。しかし適正な対処をすれば、これは防げると思います。
腋を考えるのは要するに美容に関することですが、正面切開で手術をしても、最近は丸裸にならない限りはそれとはわからないような切開が行われますので、どちらも一長一短であると思います。
なお、心房中隔欠損は大部分が二次孔欠損といわれるものですが、もしもお嬢さんの欠損が一次孔欠損といわれるものである場合には、手術の難易度も若干高くなりますので、この場合は正面切開で手術されることをお勧めします。また、近年はカテーテルによってこれを閉鎖する方法も開発途上にありますので、傷を大変気にされるのであれば、それについても担当の医師にお尋ねになっておくと良いと思います。