不整脈(心房細動)による
心不全
一口に「不整脈」といっても、脈が速くなるタイプの頻脈性不整脈、遅くなるタイプの徐脈性不整脈があり、さらにそれぞれに様々な不整脈がありますが、すべてが危険なものではありません。しかし、めまいや息切れなどの症状が強く、日常生活に支障をきたすもの、また、突然死や心不全の原因となる恐ろしい不整脈もあります。
なかでも、加齢とともに増えるのが「心房細動」という不整脈です。わが国では70歳以上の2%、80歳以上の3%に見られるといわれていますが、欧米では80歳以上の10%が心房細動との報告もあります。
心臓はふだん、電気信号によって、規則正しく収縮を繰り返しています。心房細動は、この電気信号が何らかの原因で乱れ、心房の壁が細かく震えた状態(細動)になります(図10)。心房が有効に収縮しないため、心房から心室へ十分に血液が送れなくなったり、心房細動に伴う頻脈が続いていると心室のポンプ機能が低下したりすることによって、最終的に心不全に至ることもあります。また、とくに高齢者ではもともと左心室の拡張機能障害がある場合が多く、こうした人が心房細動になると、左心室に十分な血液を貯められなくなって心機能が急激に低下して心不全を起こすこともよくあります。
もう一つ、心房細動で怖いのが、脳塞栓症です。心房が痙攣状態になると、血液がうっ滞して、心房内に血栓ができやすくなります。血栓は心房の壁からはずれ、血流に乗って動脈内を運ばれます。そして、脳の血管まで運ばれそこで詰まると、脳塞栓症(心原性脳梗塞)を発症します(図11)。心原性脳梗塞は、脳梗塞のなかでも重症化しやすく、寝たきりの原因になるだけでなく、麻痺や言語障害といった重い後遺症を引き起こすことでも知られています。
心房細動を起こした人が脳梗塞になる危険性は、心房細動のない人より数倍も高く、心不全・左室機能不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)といった危険因子があると、発症率はさらに高まるといわれています(図12)。
心房細動の主な自覚症状は、動悸、息切れなどですが、心房細動が慢性的に続いていると症状が分からなくなることもあります。また、症状があっても、高齢者は「年のせい」と我慢しがちですが、放置しておくと、急に心不全を起こしたり、心原性脳梗塞を発症して、健やかな老後が送れなくなるため、早期発見・治療が重要です。
治療としては、抗不整脈薬や抗凝固薬などの薬を服用する薬物療法のほか、異常な電気信号の発生源をカテーテルで焼き切るカテーテル・アブレーションという治療も最近よく行われており、効果を上げています。
心房細動以外では、脈が遅くなる「徐脈」が原因で、高齢者が心不全を起こすこともよくあります。脈が遅くなる代表的な疾患として「洞不全症候群」や「房室ブロック」があります。これらの病気では、心臓が急に何秒間も止まり、意識を失くすことがあるため、心臓ペースメーカを用いた治療が必要になります。ペースメーカは小型化が進み、手術も短時間で済むことから、高齢者でも手術を受ける人が増えています。