超高齢社会で急増する心不全
近年、生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)の増加や高齢化による高血圧や弁膜症の増加などにより、心不全の患者さんが急増しています。心不全は、さまざまな心疾患がたどる終末像であり、高齢者がもっとも気をつけなくてはいけない心臓のトラブルの一つでもあります。罹患者数は全国で約120万人、2030 年には130 万人に達すると推計されています(図1)。がんの罹患者数が約100万人ですから、心不全の患者さんがいかに多いかが分かります。
さらに、心不全の罹患者率は高齢になればなるほど高くなることが知られています。米国の研究によると、50歳代での慢性心不全の発症率は1%であるのに対し、80歳以上では、10%になることが報告されています。1980年以降、高齢化の一途をたどる我が国でも、近未来的に患者数の増加が続くと予想されており(図2)、こうした状況を、感染症患者の爆発的な広がりになぞらえて「心不全パンデミック」と呼ぶこともあります。
高齢者の心不全は、心臓移植などの根本治療が適応外であるため、根治することはありません。入退院を繰り返しながら、生活の質(Quality of Life:QOL)が低下していくため、予後は悪く、医療経済的にも大きな問題となっています。
こうした問題に立ち向かうべく、わが国では2016年、日本心不全学会が中心となり、75歳以上の高齢心不全患者を対象にした治療指針(高齢心不全患者の治療に関するステートメント)が作られました。心不全をめぐる臨床試験の多くは、60歳台の患者を対象としていますが、75歳以上の後期高齢者に焦点をあてた診療ガイドは、世界でも初めての試みとして注目されています。
高齢者、とくに後期高齢者では、心臓だけでなく、他にもさまざまな疾患を抱えていることが多く、フレイル(虚弱)やサルコペニア(筋力低下)、認知症といった特有の問題を抱えています。心不全の早期発見・治療もひとつの社会問題であり、そのため、医療機関のみならず地域全体でさまざまな職種が連携して、心不全の発症や重症化を防ぐための体制作りが急がれています。