第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
SASの治療における肥満の位置付け
山口(座長) SASと肥満の関係には多くの方が興味をお持ちだと思います。肥満がSASの原因ということは、肥満を改善すればSASも改善するのでしょうか。
成井 肥満が明らかに無呼吸の原因になっていると見受けられる患者さんの指導に関しては、診療のなかで常に「まずはやせましょう。運動をして、食事も制限しましょう」と言い、改善を促しています。一方で、CPAPを導入した結果、熟睡できるようになり、それをきっかけに「運動しよう」という気持ちになる患者さんも多いようです。この結果、体重が減少してCPAPの使用が必要なくなるケースもあります。
百村 重症のOSAは、それ自体が心血管系疾患の重大なリスクだと私は考えています。ですから、早期から治療を行うことで、心筋梗塞や脳卒中の発症を回避できる可能性も高くなると考えます。肥満のコントロールも並行して指導すべきですが、まずはCPAPでの治療を第一に行わなければならないと考えます。
CPAPの導入における患者指導上の問題点
苅尾 患者さんのなかには、CPAPの装着時に違和感を訴える方もいます。「無呼吸は夜の血圧の上昇につながるから、脳卒中の原因となります」などと説明してからCPAPを導入しても、なかなか継続しきれないケースが高齢者を中心に多く見られます。そうした場合には、無呼吸によって引き起こされる夜間血圧の上昇を薬物治療で抑えることも、大事な介入方法のひとつだと思います。
成井 CPAPを継続して使用してもらうためには、導入時の指導をきっちり行うことが大切だと思います。また、虎の門病院ではCPAPを使用している患者を集めて「グッドナイト・スリープ・クラブ」という会を結成し、情報交換を行っています。良質な睡眠をとって明日の活力につなげようという姿勢を共有し、励まし合いながらCPAPの使用を促すことが目的です。
百村 虎の門病院では、患者さんに対してCPAPの必要性を丁寧に説明しておられるほか、経験豊富なスタッフも多くいらっしゃるため、CPAPの使用を継続してもらうためのノウハウを豊富に有しているとお見受けします。患者さんへの教育の充実と医療提供側の熱意は大切ですね。
会場 気道の閉塞は仰臥位で寝ている時に起こるということですが、逆に伏臥位で寝ることでOSAは改善されるのでしょうか。寝る時の姿勢については、患者さんにどのように指導していますか。
成井 おっしゃるとおり、OSAは上を向いて寝る際に舌が重力で落ち込むことによって起こります。そのため、軽症や中等症のOSAの方は横臥位あるいは伏臥位で寝ることで確実に改善しますので、そうするよう指導しています。ただし、ずっと伏臥位で寝ることができるかといえば、それは難しいでしょう。ちなみに、CPAPを導入すればどのような姿勢でも気道閉塞を起こさずに自動的に呼吸できるようになります。
SASの治療が認知機能の改善につながる可能性が示唆
山口 苅尾先生のご発表でSASと認知機能との関連性が示されましたが、これは患者指導の観点からは大きなメッセージになると思います。もしSASの治療を行うことで認知症を防げることになるのならば、患者さんも治療に対してより積極的に取り組んでくれるようになると思います。この点についてはいかがでしょうか。
苅尾 介入試験を行い、SASの治療が認知機能を改善するかどうかを検討する必要があるでしょう。SASによる低酸素状態が脳神経細胞の減少をもたらし、認知機能の低下を引き起こしていると考えられるため、低酸素状態を改善することで認知機能が改善される可能性はあります。
山口 SASはまだその全貌が明らかになっていませんが、実は非常に身近な病気で、とくに循環器疾患には非常に密接に関わっているということがおわかりいただけたと思います。本日のワークショップを通じて、SASが交通事故だけでなく、もっと広い分野にわたる重要な疾患であるということをご認識いただけたら幸いです。
INDEX
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
- 第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
- 第7回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい循環器医療機器の臨床導入をめぐる問題点」
- 第6回日本心臓財団メディアワークショップ「不整脈の薬物治療に未来はあるか」
- 第5回日本心臓財団メディアワークショップ「メタボリックシンドロームのリスク」
- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
- 第2回 「心筋梗塞は予知できるか」
- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」