第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
現場では可能な限り早い段階で胸骨圧迫を
会場 心臓が停止しているか否かは、呼吸の有無を確認すればよいのでしょうか。
長尾 心臓が停止した直後は、通常とは異なる呼吸があります。反応が無く呼吸が変であれば、直ちに胸骨圧迫を行うことが重要です。
石見 最新版の「心肺蘇生法ガイドライン」では、倒れた人を発見してからは可能な限り早い段階で胸骨圧迫を行うことの重要性が強調されています。実際には、心停止ではなく意識を失っているだけの場合もあるかもしれません。ですが、それを一般市民の方々が判断するのは難しいと思いますし、心停止でない人に胸骨圧迫を行っても重大な悪影響を及ぼすことはないとされています。間違っても構いませんので、心停止を疑ったら救命処置を行っていただきたいと思います。
会場 「あっぱくん」で胸骨圧迫を体験したところ、胸骨を圧迫する際に肋骨が折れてしまうように感じました。
石見 たしかに肋骨が折れることはありますが、救命することが優先ですので、心停止患者には力強く胸骨圧迫することが何より重要です。
長尾 「心臓マッサージ」という言葉には心臓の上を押すというイメージが強いですが、胸の左側を押すと肋骨が折れやすくなります。胸の中央部分を押すことを心がけてください。また、「心臓マッサージ」以外の良い呼び名がありましたら、メディアや一般の方々に是非ネーミングをお願いいたします。
会場 救命処置の中で、AEDはどのようなタイミングで施行すべきなのでしょうか。
長尾 心停止直後の現場にAEDがあることはほとんどありません。AED到着を待ちながら、数分間は胸骨圧迫を行い、到着し次第AEDを施行するのが一般的です。
「時間がかからないこと」が胸骨圧迫の利点
山口 心肺蘇生に人工呼吸を含めるべきか検討された米国の比較試験は、無作為割り付けとのことですが、どのように行われたのでしょうか。
長尾 119番(米国では911番)の通報者に救急隊員が電話で心肺蘇生法を指導する際に、無作為に割り付けました。すなわち、電話によるCPRの指導を従来法のCPRと胸骨圧迫のみCPRに無作為に割り付けたのです。講習未経験者では電話指示に時間がかかりますので、最新のガイドラインでは119番での口頭指導は胸骨圧迫のみが良いとされています。
会場 講演の中で「心臓性心停止患者には胸骨圧迫のみが良い」とありましたが、そうでない患者にはどのような処置をすべきなのでしょうか。
石見 心停止には、心臓が原因で心停止となる心臓性心停止と、心臓以外の何らかの原因で呼吸が止まり、酸素が足りなくなることで心臓が止まる非心臓性心停止があります。溺れたり物を詰まらせてしまった場合は後者にあたり、理論的には胸骨圧迫のみならず人工呼吸で酸素を与えた方が良いと考えられますが、結論は出ていません。小児の場合、心停止の多くは非心臓性停止と言われています。
日本の救命率は世界をリードしている
山口 日本はAEDの普及率が非常に高いとのことですが、心停止患者が蘇生する割合も高いのでしょうか。
長尾 はい。論文として発表されているデータに関して、石見先生の講演で紹介された大阪府豊中市は心臓性心停止患者の社会復帰率が世界で一番高いです。日本は国全体としても救命率が高く、世界をリードする立場にあります。その背景には、AED普及以外にも日本が単一民族であることや日本人の生真面目な気質があると考えられます。
石見 救命率は各地域で差がありますが、地域の人口や居住者の年齢が大きく影響しますので、単純に数字を比較しにくい面もあります。地域別の救命率を取り上げる際には、数字が低い地域がネガティブなレッテルを貼られることのないよう、救命率向上のために建設的な報道をお願いいたします。
山口 本日、長尾先生と石見先生に、救命に関するたくさんの最新データを紹介していただきました。日本の救命率がさらに向上するためには、そばに倒れた人を発見したらすぐに胸骨圧迫を行う方が増えることが重要です。本日はご参加いただきましてありがとうございました。
INDEX
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
- 第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
- 第7回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい循環器医療機器の臨床導入をめぐる問題点」
- 第6回日本心臓財団メディアワークショップ「不整脈の薬物治療に未来はあるか」
- 第5回日本心臓財団メディアワークショップ「メタボリックシンドロームのリスク」
- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
- 第2回 「心筋梗塞は予知できるか」
- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」