第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
心房細動は近年、高齢化とともに有病率が上昇しており、高血圧などを背景とする非弁膜症性心房細動が増えている。血栓塞栓症に伴う脳梗塞も大きな問題となっており、2008年には「心房細動治療(薬物)ガイドライン」(以下、ガイドライン)が改訂されている。今回、新氏は心房細動の薬物治療について、ガイドラインのポイントを解説した。
心疾患の有無により異なる治療選択
図2 器質的病的心に伴う心房細動に対する治療戦略
心房細動は持続時間により発作性、持続性、永続性に分類される。治療薬の選択は、背景に心疾患があるか否かにより異なる。ガイドラインでは、背景に心疾患がない孤立性心房細動に対しては、発作性の場合はNaチャネル遮断薬(I群薬)、持続性の場合は心拍数を調節するとともに、Kチャネル遮断薬(III群薬)などの投与が推奨されている(図1)。
器質的心疾患に伴う心房細動の治療においても、抗不整脈薬を使用する場合もある(図2)。しかし、11,322症例のメタ解析では、IA、IC、III群薬は洞調律を維持する一方で有害事象を増加させ、特にIAが死亡率を上昇させたと報告されていることから(Lafuente-Lafuente C et al. Arch Intern Med 2006; 166: 719-728)、「抗不整脈薬の使用に際しては、安全性を確保することが重要」と新氏は注意を喚起した。
CHADS2スコアに基づき抗血栓療法を選択
心房細動が発症すると、脳梗塞の危険因子である血栓塞栓症を合併する頻度が高率になるため、適切なリスク評価に基づいた抗血栓療法が推奨される。現在、最も汎用されている脳梗塞のリスク評価法はCHADS2(C:うっ血性心不全、H:高血圧、A:年齢、D:糖尿病、S:脳卒中ないし一過性脳虚血発作の既往)であり、CHADを各1点、Sを2点として計6点でリスクを評価する。CHADS2スコアは脳卒中の発症率と関連しており(Gage BF et al. JAMA 2001; 285; 2864-2870)、ガイドラインでも非弁膜症性心房細動における脳梗塞のリスク評価法として採用されている。
抗血栓療法のメタ解析では、アスピリン(抗血小板薬)に比べワルファリン(抗凝固薬)の脳卒中予防効果が優れており(Hart RG et al. Ann Intern Med 1999; 131: 492-501)、また、わが国で行われた臨床試験JASTでは、非弁膜症性心房細動症例の脳卒中予防において低用量アスピリン(150~250mg/日)の有効性および安全性は示されなかった(Sato H, et al. Stroke 2006; 37: 447-451)。こうした報告から、ガイドラインでは、これまで抗血栓薬として記載していたアスピリンを削除し、CHADS2スコアが2点以上の場合はワルファリン療法を推奨するとともに(図3)、ワルファリンが禁忌でない患者への抗血小板療法は推奨されないことを明記している。なお、ワルファリンの至適治療域はプロトロンビン時間の国際標準化比(INR)2.0~3.0、70歳以上の高齢者においてはINR 1.6~2.6に設定されている。
アップストリーム治療も治療アプローチのひとつ
心房細動に対する抗不整脈薬以外のアプローチとして、不整脈の発症基盤となる心筋の構造的・電気的リモデリングの促進因子をターゲットとしたアップストリーム治療が注目されている(図2、4)。効果が期待される薬剤として、スタチン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などが挙げられる。
新氏は、「心房細動に対する治療方針は、患者背景、治療の目的とその効果、治療の難易度などさまざまな要因によって決まる。抗不整脈薬のみならず、アップストリーム治療や、背景にある高血圧の是正など、さまざまな手段を駆使して心房細動の治療に臨むことが重要である」と述べ講演を締めくくった。
INDEX
- 第24回『心房細動』の診断・治療における最新トレンド―AIや家庭で取得したバイタルデータを活用した早期発見の可能性―
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
- 第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
- 第7回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい循環器医療機器の臨床導入をめぐる問題点」
- 第6回日本心臓財団メディアワークショップ「不整脈の薬物治療に未来はあるか」
- 第5回日本心臓財団メディアワークショップ「メタボリックシンドロームのリスク」
- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
- 第2回 「心筋梗塞は予知できるか」
- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」