第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
2007年、日本腎臓学会により慢性腎臓病(CKD)に関する診療ガイドが発表された。CKDは、近年、注目されている疾患だが、一般にはまだあまり知られていない。今回、槇野氏は、その定義を紹介するとともにわが国のCKD患者の現状と今後の診療連携の重要性について解説した。
CKDが注目される背景
CKDというキーワードが国内外で注目を集めている。その背景のひとつに、世界的な透析患者数の増加があげられる。末期腎不全に陥ると透析導入が必要になるが、わが国の累積透析患者数は27万5千人(2007年12月時点)、実に国民の500人に1人が透析を受けていることになる。今後も増加していけば、医療費への圧迫が懸念される。一方、これまで腎臓病は「腎臓だけの病気」と捉えられてきたが、最近の研究では、軽症のCKDであっても心血管病の重要な危険因子になることがわかってきた。
透析導入や心血管病を減少させるためにも、医療費の面からも、CKDの早期治療が求められる。
CKDの定義とわが国のCKD患者数
図2.日本人のためのGFR推算式
図3.日本と米国のGFR分布
日本腎臓学会が2007年に発表した「CKD診療ガイド」によると、CKDは「蛋白尿などの腎障害の所見または腎機能低下〔糸球体濾過量(GFR)60mL/min/1.73m2未満〕の状態が3カ月以上続いた状態」と定義される(図1)。メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病と同様、CKDは自覚症状を伴わないことが多い。しかし、たとえば健康診断でCKDと診断され早期治療が行われれば、その後に起こりうる心血管病や腎不全への進展を防ぐことが可能である。
従来、腎機能評価の指標となるGFRは、クレアチニン値や年齢などをMDRDという米国の計算式に当てはめて算出されていた。しかし、日本人の腎機能は米国人に比べもともと低い傾向があるなど人種による違いがあるため、この数値は正確さに欠けるという問題があった。そのため、日本腎臓学会は、今年、日本人のためのGFR推算式を発表した(図2)。新しい計算式をもとに、わが国のCKD患者数を再評価したところ、これまで考えられていた数を大きく上回る1,330万人という驚くべき結果が出た。また、日米で国民のGFR分布を比較すると、かつては米国のほうが腎機能低下の割合が多いとされていたが、実際はほぼ同じであることが判明した(図3)。つまり、増加の一途をたどる透析患者数の背後には、「成人の8人に1人はCKD」という事実があることが示されたのである。CKD患者は末期腎不全および透析の予備軍であることから、CKDの早期診断・治療が強く望まれる。
CKD治療—診療連携の重要性
CKDの早期診断・治療は急務だが、現在、CKD患者数に対して腎臓専門医の数が圧倒的に不足している。そこで、日本腎臓学会は診療連携システム案を提示し(図4)、かかりつけ医と腎臓専門医との連携強化を呼びかけた。CKDの戦略研究では、透析患者数の15%減少を目指しており、今後の取り組みが期待される。
CKD患者に対する診療連携を進めることで、末期腎不全への進展や透析導入、あるいは心血管病の発症を防ぐことができれば、増加するばかりの医療費の軽減も可能になる。そのためにもCKD早期治療の重要性を社会に浸透させ、CKDに対する国民の意識を高めることが不可欠である。
INDEX
- 第24回『心房細動』の診断・治療における最新トレンド―AIや家庭で取得したバイタルデータを活用した早期発見の可能性―
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
- 第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
- 第7回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい循環器医療機器の臨床導入をめぐる問題点」
- 第6回日本心臓財団メディアワークショップ「不整脈の薬物治療に未来はあるか」
- 第5回日本心臓財団メディアワークショップ「メタボリックシンドロームのリスク」
- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
- 第2回 「心筋梗塞は予知できるか」
- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」