疾患別解説

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心筋炎とは

百村伸一
さいたま市民医療センター病院長
自治医科大学名誉教授

心筋炎とは心臓の筋肉の炎症による病気の総称で、心筋に炎症を生じると心臓の機能が低下し様々な不都合が生じます。心筋炎の原因はウイルスやばい菌による感染、薬物やワクチン、膠原病なとの全身の病気に伴うものなど様々ですが、新型コロナウイルスやコロナウイルスワクチンでも低い確率で心筋炎を起こすことが知られており、コロナワクチンによる心筋炎の頻度は100万回接種当たり2~3人とされています。心筋炎の多くは急激に発症する急性心筋炎の形をとり、2~3週間で治癒しますが、重症の経過をたどる劇症型心筋炎と呼ばれるタイプもあり、また慢性化することもあります。

【症状】

ウイルスが原因の心筋炎では心筋炎を発症する1~2週間前に、悪寒・発熱・頭痛などの風邪症状を呈することがしばしばあります。吐き気や下痢などの消化器症状を伴うものもあります。発熱、頻脈もよくみられる症状です。
心筋炎そのものに伴う症状としては胸痛があり、半数以上の症例でみられ、身体の位置や深呼吸によって痛みの程度が変わることがあります。心臓の筋肉の障害がある程度以上に広がると心臓の働きが低下するために、倦怠感、息切れ(特に動いた時)、夜間の呼吸困難、足のむくみなどの心不全症状が出現します。
心筋炎は、また様々な不整脈の原因となります。期外収縮などの脈が速くなる頻脈性不整脈も起こりますし一方で脈が遅くなる房室ブロックなどの徐脈性不整脈も出現します。頻脈性不整脈では動悸を自覚し、徐脈性不整脈では失神などを起こすことがあります。

【診断】

心電図:これらの不整脈の有無は心電図で確認し、診断しますが、不整脈以外に心電図では心筋梗塞と似通った異常も見られます。
聴診:聴診器では普段聞こえない心雑音やIII音が聞こえることがあり、心膜炎を合併すると心膜と心筋がこすれて起きる特徴的な心膜摩擦音が聞こえることもあります。心不全になると肺に水がしみだしてきて肺水腫という状態になると呼吸伴ってパリパリというラ音を聴取することもあります。
血液検査:心筋炎の診断には血液の検査も重要で、炎症を反映して白血球数の増加や炎症に伴うタンパクCRPの上昇やクレアチンフォスフォキナーゼ(CPK),心筋トロポニン、などの心筋が壊れることによる心筋バイオマーカーの上昇も見られます。このような心筋炎にみられる心電図や血液データの異常は心筋梗塞などの急性冠症候群でも見られるため、両者の見極めが重要です。
心エコー:心エコ―では心臓とくに左心室の動きが全体的に低下していることが多く、また炎症にともない心筋組織に浮腫を生じるため心臓の壁が厚く見えます。多くの場合心膜炎を伴っているので、心臓を包んでいる心膜と心臓の間に心膜液という液体の貯留がみられます。
心臓MRI:心筋の浮腫や心筋の傷害の程度を画像としてみることができるため診断に有用です。
心臓カテーテル:急性冠症候群との鑑別のためには、冠動脈造影や心筋のサンプルを採取する心筋生検が行われ、このために、手足の血管から心臓に管を入れて調べる心臓カテーテル検査が行われます。冠動脈造影についてはカテーテル法によらなくても、冠動脈CTでも精度の高い画像が得られるようになりました。

心筋炎の診断を下すためには上記のような症状や検査の所見をもとに総合的に行います。

【治療】

心筋のダメージの程度にもよりますが、心筋炎の急性期には多かれ少なかれ、心臓の機能が低下するため、それに対するサポートが必要となります。心筋炎と診断された場合にはまず入院のうえ厳重な経過観察が必要です。入院後は当分の間心電図や酸素飽和度のモニターを行います。軽症の場合は解熱鎮痛剤を用いる程度で特別な治療を要しない場合も多いのですが、心機能の低下に対しては"急性心不全"に対する治療が行われます。心不全の際に体にたまってくる余分な水分・ナトリウムを取り除くための利尿薬、血管を広げる血管拡張薬などを用いて"うっ血"を改善します。心臓の収縮力(血液を全身に送り出す力)が極度に低下している場合にはノルアドレナリンやドパミンなどの強心薬も用いられます。
劇症型心筋炎と呼ばれる重症例では薬剤のみで心臓の機能を保てない場合もあり機械で体の血液の循環をサポートするために補助循環も必要となることがあります。さらには植え込み型人工心臓、心臓移植が考慮されるに至る場合もあります。
心筋炎に伴う不整脈への対策も必要です。房室ブロックの結果脈が極度に遅くなったり、脈が出なくなったりする場合には一時的なペースメーカ治療が必要となることがあります

【予後】

心筋炎の多くは予後良好で数週間で完全に治りますが、心筋炎が一度治ったように見えても慢性化してしまう場合がありますので、急性期を過ぎた後も経過観察が必要です。稀ではありますが上記の劇症型心筋炎に陥ると適切な治療が行われないときには、命にかかわることがあるので、集中的治療室での経過観察、一時的な補助循環、さらにはその後には心臓移植が必要となることもあります。

(2023年8月掲載)

妊娠と期外収縮、小学校の心電図検診でQS型といわれた、不整脈と弁膜症で心不全に、狭心症の疑いなど、日本心臓財団は7,500件以上のご相談にお答えしてきました。

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