疾患別解説

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冠動脈解離の治療

59歳 男性
2004年12月27日

父が、冠動脈解離の疑いで、主治医より血管内超音波検査とステントによる治療を勧められました。
9月に発作があり、心電図、24時間心電計、心エコー、心臓核医学検査、タリウムシンチグラム実施。左前部に異常があり、12月に心臓カテーテル検査を実施しました。左右冠動脈に有意狭窄は認められなかったものの、左前下行枝中間部#6?#7に血管内に平行の線状の陰影欠損あり。(約3cm)左室造影では軽度壁運動低下所見ありとのこと。
現在、バファリン、レニベース、リポバス、ヘルベッサーを処方されています。
主治医の話によると、「冠状動脈解離の可能性が高い。9月の発作時に血圧が200くらいに上がり、自然に裂けたかもしれない。カルシウム沈着の可能性もある。冠攣縮性狭心症の可能性もあるが、その後発作が起きていないとすると解離の可能性が高い」とのこと。
そして、「血管内超音波検査を勧めるが、解離が進行したり、心筋梗塞を起こすリスクがある。しかし、放っておくと冠状脈瘤になる危険性もある。確立された治療法は無いが、ステントを入れる治療をお勧めする。珍しい症例なので日常生活については文献検索をしてお答えする」とのことでした。
1)先生は血管内超音波を勧めましたが、家族としては、まずは侵襲の少ない検査を望みます。ネットでカルシウムスコア検査(電子ビームCT)のことを知りました。カルシウム沈着を否定するために行ったほうが良いでしょうか?
2)冠状動脈解離の治療法はどのようなものがあるのでしょうか?
3)ステントを入れた場合、どのような合併症が起きるのでしょうか?

回答

1)電子ビームCTは冠動脈疾患の有無をスクリーニングするために有用な方法ですが、実際の冠動脈のある特定部分にどのような石灰化がどの程度あるかの詳細はわかりにくいと思います。血管内超音波はもっとも正確に目的部位の石灰化の程度や分布、程度を直接かつ細かく見ることができる大変に有用な診断技術です。冠動脈内を傷つける可能性は否定できませんが、無理をしなければ大きなトラブルが起こることは少ないとは思います。それにより冠動脈解離の有無、石灰化の程度や分布が判明し、ステントの留置などの治療の適応があるかどうかを決定することができると思います。血管内超音波法はステント留置術を前提として行うことが多いと思います。

2)自然に起きた冠動脈解離は、急性心筋梗塞の原因となる状態とされており、放置することも危険な可能性があります。解離の程度により内科治療のみで様子を見ることもあるかもしれませんが、絶対に安全とはいえません。冠動脈の中を狭くするような所見があればなおさらですし、またその部位が冠動脈の根元付近であれば放置するのは危険かも知れません。ステントを挿入することができて解離を押し付けて修正できれば、とりあえずの危険が相当減少すると考えられます。軽度の解離は自然に修復して治ってしまうことがあります。
高度の解離で自然修復しない場合でも、実際には解離の範囲が長すぎたり、血管の直径が大きすぎるため、ステントが挿入できずに内服治療のみで慎重に様子を見ている患者さまもおられます。
もうひとつの治療の選択肢は冠動脈バイパス術です。解離の先に十分な長さの正常な血管があり、解離部分で血流が制限されている場合には冠動脈バイパス術の適応がある場合も考えられます。

3)ステントの合併症はいくつかあります。冠動脈形成術そのものの合併症は心臓カテーテル検査とほぼ同等です。少ないですが死亡率もあります。0.1%くらいといわれています。ステントそのものによる合併症は金属を血管内に埋め込むことによる合併症です。金属は異物ですので、細胞が増殖して表面を多い尽くすまでは血液に直接触れており、血栓がつきやすい状態です。特にはじめの1週間以内に突然血栓で閉塞することがあります。頻度は1%以下ですが、起きた場合には急性心筋梗塞となります。6ヶ月たてばステントは血管壁内に埋まりこむため、まず問題なくなると考えられます。大変にまれですが、ステントの材質のステンレスなどにアレルギーがあると皮疹など全身症状が起こることが報告されています。大変にまれであり特異体質でなければ問題ないと考えます。
挿入後初めの3ヶ月間はMRI検査は避けたほうが無難ですが、その後は普通に受けられます。ステント治療は日本では年間15万件行われている確立されたたいへんに有効な治療法です。

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