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循環器病治療の最新情報2016

Part Ⅱ 心不全
心不全の薬物治療の最前線

講演内容

HFrEFとHFpEFの間にHFmrEF(ESCガイドライン2016)

 最初に安斉氏は、欧州心臓病学会(ESC) が作成した「急性及び慢性心不全の診断と治療ガイドライン2016」に言及。この改訂版では、従来から大きく二分されていた左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(heart failure with reduced EF:HFrEFヘフレフ)とLVEFが保持された心不全(heart failure with preserved EF:HFpEFヘフペフ)との間に、LVEFが「mid-range」の心不全(heart failure with mid-range EF:HFmrEFミッドレンジ)が新たに加わったことを紹介した。「これまで、HFpEFをLVEF>40%、>45%、>50%といったカットオフ値を用いて予後を検討する様々な臨床試験が行われたが、結果はいずれもネガティブだった。しかしLVEF40-49%を除外する、あるいはLVEF40-49%だけを対象とすると結果が異なる場合もあった」と安斉氏はこれまでの状況を説明する。そこで研究を活性化し、新たなエビデンス創出を目指してHFmrEFをHFpEFと分けて検証するために、今回、LVEFが「mid-range」の心不全(HFmrEF)を分けて設定することになったという。LVEF<40%がHFrEF、LVEF40-49%がHFmrEF、LVEF≧ 50%がHFpEFということになるが、BNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)>35pg/mLおよび/またはNT(N末端)-pro BNP>125pg/mLがHFrEF以外の診断基準に明記されることにもなった(表1)。

表1 HFrEFとHFpEFの間にHFmrEF(ESCガイドライン2016)

表1 HFrEFとHFpEFの間にHFmrEF(ESCガイドライン2016)

*1) HF(特にHFpEF)の早期ステージおよび利尿薬で治療している患者では、徴候が現れないかも知れない。
*2) BNP>35pg/mLおよび/またはNT-pro BNP>125pg/mL

HF=heart failue
HFrEF=heart failure with reduced ejection fraction
HFmrEF=heart failure with mid-range ejection fraction
HFpEF=heart failure with preserved ejection fraction
BNP=B-type natriuretic peptide
NT-proBNP=N-terminal pro-B type natriuretic peptide
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Ponikowski P et al.2016 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure.Eur Heart J 2016;37:2129-2200より引用改変

 BNP値やNT-pro BNP値がこのような形で診断基準に明記された理由の1つとして同氏は、臨床試験TOPCAT(LVEF≧45%、12カ月以内の心不全管理のための入院歴、無作為化60日以内のBNP≧100pg/mLまたはNT-pro BNP≧360pg/mL、3,445例、平均追跡期間3.3年)の結果を挙げる。同試験では、ミネラロコルチコイド受容体(MR)拮抗薬スピロノラクトン群の有意な予後改善効果を証明できなかった。しかし予め設定されていたサブ解析において、心不全管理のための入院歴による登録群ではプラセボ群と予後に差がなかったものの、BNPによる登録群ではスピロノラクトン群で有意な予後改善が認められたためだという(両群間の相互作用P=0.01,Pitt B et al. N Engl J Med 2014)。

症候性HFrEF患者に対する治療アルゴリズム
(ESCガイドライン2016)とARNI

 続いて同氏は、同ガイドラインに記載されている「症候性HFrEF患者に対する治療アルゴリズム」を紹介した(図)。

図 症候性HFrEF患者に対する治療アルゴリズム(ESCガイドライン2016)

図 症候性HFrEF患者に対する治療アルゴリズム(ESCガイドライン2016)

a)症候性=NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ度
b)左室駆出率<40%
c)ACE阻害薬に忍容性がない/禁忌ではARBを使用
d)MR拮抗薬に忍容性がない/禁忌ではARBを使用
e)過去6カ月以内の心不全による入院またはナトリウム利尿ペプチド値上昇の場合(BNP>250pg/mLまたはNT-proBNPが男性で>500pg/mL,女性で750>pg/mL)
f)血漿ナトリウム利尿ペプチド値上昇の場合(BNP≧150pg/mLまたは血漿NT-proBNP≧600pg/mL、または最近12カ月以内の心不全入院があり血漿BNP≧100pg/mLまたは血漿NT-proBNP≧400pg/mL)
g)エナラプリル10mg1日2回と等しい投与量
h)前年度内における心不全による入院
i)CRTはQRS≧130msecおよび左脚ブロック(洞調律における)の場合に推奨される
j)CRTはQRS≧130msecおよび非左脚ブロック(洞調律における)の場合、または両心室捕捉を適切に確保するための戦略を条件に心房細動患者に考慮すべきである/考慮して良いかもしれない(個々の症例で決定)

HFrEF=heart failure with reduced ejection fraction
BNP=B-type natriuretic peptide
NT-proBNP=N-terminal pro-B type natriuretic peptide
ARNI=angiotensin receptor neprilysin inhibitor
H-ISDN=hydralazine and isosorbide dinitrate

*本邦未承認
§同ガイドラインではICDによる心臓突然死の二次予防と一次予防について、別項で詳述し推奨クラスとエビデンスレベルを示した「心不全患者におけるICD 推奨」の表も掲載されている。その表によると二次予防、一次予防とも「突然死と総死亡のリスクを減少させるために推奨される」としており、その対象を二次予防は、「血行動態不安定による心室性不整脈から回復した患者で、良好な機能状態で1年以上の生存が期待できる患者」としている。また一次予防は、「3カ月以上のOMTにかかわらず症候性(NYHA心機能分類Ⅱ-Ⅲ度)、左室駆出率≦35%であること、そして良好な機能状態で実質的に1年以上の生存が期待でき、虚血性心疾患(40日以内の心筋梗塞既往がない場合)や拡張型心筋症がある患者を条件とする」としている。二次予防、一次予防いずれも推奨クラスは最高度のⅠで、エビデンスレベルは拡張型心筋症以外は最高度のAとなっている(拡張型心筋症のエビデンスレベルはB)。

 我が国での心不全患者におけるICDによる心臓突然死の二次予防と一次予防について安斉氏に現状の紹介と考察をお願いし、次のような回答を得た。

 「日本におけるICDによる心臓突然死の二次予防に関しては、基本的にESCと同様である。一次予防に関しては、OMTにもかかわらず、左室駆出率≦35%で非持続性心室頻拍を認める場合には、ICDの適応が考慮される。心臓再同期療法が実施される場合には、ICD機能を併せ持つCRT-Dが選択される。しかし、心臓突然死よりも心不全死のリスクが高い重症心不全においては、ICDによって十分な費用対効果、生活の質改善効果を得ることは難しい可能性がある。実際に、心不全終末期においては、ICDの機能を停止させることもあり、心機能低下例に対して一律にICDを植え込むことは控えるべきと考えられる。特に高齢の慢性心不全患者においては、本人が希望する終末期医療などについて十分に話し合った上でICDの適応を決定することが望ましい」。
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Ponikowski P et al.2016 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure.Eur Heart J 2016;37:2129-2200より引用改変

 推奨クラスⅠは緑色、推奨クラスⅡaは黄色で示されている。HFrEFに対してはまずACE阻害薬とβ遮断薬を導入し、可能な限り最大量まで増量する。それでも症状が残存しLVEF≦35%の場合はMR拮抗薬を追加し、やはり可能な限り最大量まで増量する。それでも症状が残存しLVEF≦35%の場合、ACE阻害薬またはARBをangiotensin receptor neprilysin inhibitor(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:ARNI)に変更する。安斉氏によれば、ARNI(アーニィ)はARBバルサルタンとネプリライシン(中性エンドペプチダーゼ)の阻害薬であるサクビトリルとの化合物(試験段階での名前はLCZ696)で、HFrEF患者(NYHA心機能分類Ⅱ-Ⅳ、LVEF≦40%:2010年12月のプロトコール改訂後は≦35%、BNP≧150pg/mLまたはNT-pro BNP≧600pg/mL、追跡期間の中央値27カ月、8,442例)を対象にした大規模臨床試験PARADIGM-HFにおいて、利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したLCZ696群で対照薬であるエナラプリル群よりも、有意に主要評価項目(心血管死+心不全による入院)を減少させた(McMurray JJ et al. N Engl J Med 2014)。
ただ同試験では、75歳以上の高齢者ではLCZ696群において、エナラプリル群よりも症候性の血圧低下の頻度が有意に多かったことから、同ガイドラインでは高齢者では血圧低下に注意すること、ACE阻害薬とARNIの併用により血管浮腫の合併症が高率に発生する危険性があるため両者の併用は禁忌としている。従って、ACE阻害薬から切り替える際には、ACE阻害薬をARNI開始36時間前までに中止すべきことなども記載されている。
「いよいよARNIは、HFrEFの標準治療になりつつある」と安斉氏 ※1

 LCZ696は2015年7月、商品名Entresto®として米国食品医薬品局(FDA)によりHFrEFに対し承認を受けた(本邦未承認)。

ARNIはHFpEFに対する有効性にも期待

 ARNIはHFrEFだけでなくHFpEFに対する有効性も示されている。PARAMOUNT試験(NYHA心機能分類Ⅱ-Ⅲ、LVEF≧45%、NT-pro BNP>400pg/mL、301例、第Ⅱ相試験)では、主要評価項目であるベースラインから12週後のNT-pro BNPの変化は、LCZ696群で対照群(バルサルタン群)より有意に低下した。そのサブ解析では糖尿病、LVEF≧50%でより有効な可能性も示唆されている(Solomon SD et al. Lancet 2012)。「糖尿病患者では、糖尿病性心筋症などのように、しばしば拡張障害を主体とした心不全が生じるのでARNIの良い適応になるかもしれない」と安斉氏は指摘する。

HFrEFとHFpEFにおける心不全発症形式の違い

 同氏はHFpEFにおける「心筋不全と心筋リモデリング」についても紹介した。それによると過体重/肥満、高血圧、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、鉄欠乏症などの併存疾患によって、酸化ストレスや炎症が惹起されROS(Reactive Oxygen Species:活性酸素種)が発生する。ROSは血管内皮に作用して一酸化窒素(NO)産生低下をもたらす。NO産生低下は、心筋細胞における可溶型グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase: sGC)活性を低下させ、さらに環状グアノシン一リン酸(cyclic guanosine monophosphate: cGMP)やプロテインキナーゼG(protein kinase G:PKG)活性も低下させる。PKGは心筋肥大抑制的に働いているので、PKG活性低下により心肥大が助長されHFpEFが生じると考えられている。一方、HFrEFは虚血、感染、毒性物質などの働きにより直接、心筋細胞でROSが生じることで起きてくると考えられている(Paulus WJ,Tschöpe C. J Am Coll Cardiol 2013)。
 「HFrEFは心筋細胞に病変(心筋不全/心筋リモデリング)が生じる心不全であるのに対し、HFpEFはまず血管内皮に病変が生じる心不全ではないか」と同氏はみている。

 分子生物学的な検討において、HFpEFではN0╶cGMP╶PKG Pathwayが障害されていることも分かっている。cGMPの低下に対し、ナトリウム利尿ペプチドを分解するネプリライシンの阻害薬を投与することで膜結合型グアニル酸シクラーゼ(Particulate guanylate cyclase: pGC)を活性化させ、cGMP低下に対して代償的に働かせることができる。ARNIがHFpEFに対して有効なのも、こうした機序を介するものだと考えられている(Komajda M, Lam CS. Eur Heart J 2014)。

 進行中の大規模臨床試験PARAGON-HF試験では、HFpEF(NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ、LVEF≧45%、約4,600例)を対象にLCZ696群とバルサルタン群の予後(心血管死+心不全による入院)へ及ぼす効果が比較されている。2019年に終了予定。

ナトリウム利尿ペプチドから合成された新規心不全治療薬
(センデリチド、ウラリチド)

 安斉氏によれば、ネプリライシン阻害薬が心不全治療薬として評価されるに伴い、ナトリウム利尿ペプチドに再び注目が集まっているという。
 ナトリウム利尿ペプチドであるANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)、DNP(マンバ属のヘビ=Dendroaspis=ナトリウム利尿ペプチド)は同じNPR-A(ナトリウム利尿ペプチド受容体-A)に結合し、利尿・血管拡張作用をもたらす。CNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)は心線維芽細胞のNPR-B(ナトリウム利尿ペプチド受容体-B) に結合し、細胞外マトリクス産生も抑制する。

 CNPとDNPのC末端を合成させることで新たなナトリウム利尿ペプチド(合成キメラペプチド)センデリチド(Cenderitide: CD-NP)が作成された。センデリチドはNPR-AとNPR-B両者に作用し、心筋線維化をより抑制する可能性がある(Lee CY et al. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacol 2016)。「センデリチド静注はHFpEFに対して有効ではないかと期待されている」(安斉氏)。

 ナトリウム利尿ペプチド誘導体ウラリチド(Ularitide)も様々な臨床試験が行われている。ウラリチドはヒトの尿からUrodilatinとして単離されたもので、血中には存在せず、遠位尿細管で産生されパラクライン的に集合管に作用する。集合管のNPR-Aに結合し、強力なナトリウム利尿作用を有する。またProANPから酵素の作用を受けて産生され、ANPよりN末端にアミノ酸が4つ多い構造を有し、強力な利尿作用とともに血管拡張作用を持つ(Anker SD et al.Eur Heart J 2015)。非代償性心不全患者(221例)を対象としたSIRIUSⅡ試験(第Ⅱ相試験)においてウラリチド(24時間持続静注)を標準治療に加えることで、プラセボと比べて用量依存性に有意に体血管抵抗を低下させ、心係数を有意に増加させた(Mitrovic V et al. Eur Heart J 2006)。安斉氏によればウラリチドは、急性心不全に対する有効性が期待される薬剤だという。

 第Ⅲ相大規模臨床試験TRUE-AHF(急性非代償性心不全による入院患者2,157例)では、従来治療に加える形でウラリチド(48時間静注)群とプラセボ群との間で、6、24、48時間後の症状の変化などを段階評価し、予後も評価した。Negative studyとなったBNP静注薬であるネシリチド(Nesiritide)を使った臨床試験ASCEND-HF(急性非代償性心不全7,141例)では、入院後から無作為化までに平均15~16時間を要していたが(O'Connor CM et al.N Engl J Med 2011)、TRUE-AHFでは初期アセスメント後早期(12時間以内)に無作為化し治療を開始している。TRUE-AHFは2016年3月に終了した ※2

NO-sGC-cGMP系を標的とした新規心不全治療薬
(リオシグアト、ベリシグアト)

 HFpEFの箇所でNO-sGC-cGMP系を標的とした心不全治療について触れたが、直接、可溶型グアニル酸シクラーゼ(sGC)を活性化させるsGC刺激薬も心不全治療薬としての臨床試験が進んできた。我が国でも既に慢性血栓塞栓性肺高血圧症治療に認可されているリオシグアト(Riociguat)を使って肺高血圧症に由来する左室収縮不全(LVEF≦40%、平均肺動脈圧≧25mmHg、201例)を対象に行われたLEPHT試験(第Ⅱb相試験)において、高用量(2mgを1日3回)群では16週後の平均肺動脈圧はベースラインより有意に減少したが、プラセボ群との比較では有意差はなかった(P=0.10)。しかし、高用量群では、16週後の心係数、1回拍出係数はプラセボ群より有意に増加した(Bonderman D et al.Circulation 2013)。「リオシグアトに関しては、心不全治療薬としての血行動態上の有効な作用が確認されている」と安斉氏。

 もう1つのsGC刺激薬ベリシグアト (Vericiguat) を使ったSOCRATES-REDUCED試験も行われた。同試験(第Ⅱ相試験)の対象は慢性心不全の悪化を伴うLVEF<45%の患者456例(日本を含むアジア人77例)。主要評価項目は12週後のNT-pro BNPのベースラインからの変化。Pooled data(1.25mg/日を除く高用量3群:2.5mg/日、5mg/日、10mg/日)ではプラセボ群と有意差はなかったが、用量依存性があり高用量(目標10mg/日)ではNT-pro BNPの有意な低下を認めた。有害事象に差はなく忍容性は良好だった。副次評価項目である心血管死+心不全による入院は、ベリシグアト高用量(5mg/日、10mg/日)で優れることを示唆するデータが得られており(Gheorghiade M et al. JAMA 2015)、登録がスタートした第Ⅲ相試験(VICTORIA試験)の結果に期待がもたれている。

新規急性心不全治療薬セレラキシン

 次に安斉氏が取り上げた新規心不全治療薬はセレラキシン(Serelaxin: 遺伝子組み換え型ヒトリラキシン-2)である。リラキシンは妊娠期に卵巣、子宮、胎盤などから分泌されるホルモンで子宮弛緩作用を有する。また静脈内投与により血管拡張作用、腎血流増加作用を示すが、「これはNOを介する効果と考えられており治療法として期待が集まっている」(安斉氏)。呼吸困難や肺うっ血を伴う急性心不全患者(BNP≧350ng/LまたはNT-pro BNP≧1400ng/L)を対象としたRELAX-AHF試験(東洋、西洋、米国、イスラエル、アルゼンチン、1,161例)において、セレラキシン群はプラセボ群よりも主要評価項目である5日後の呼吸困難(Visual analogue Scale: VASにより自己評価)の曲線下面積(AUC)を有意に改善した。「セレラキシンは急性心不全の症状を取る上で非常に有効と考えられる」と安斉氏。実際、もう1つの主要評価項目である6時間後、12時間後、24時間後の呼吸困難の症状の著明な改善+中等度の改善(Likert尺度による自己評価)は、いずれもプラセボ群と有意差はないもののセレラキシン群で高い傾向を認めた。また副次評価項目である180日間における心血管死亡率、全死亡率はセレラキシン群でプラセボ群よりも各々、有意に減少した(Teerlink JR et al. Lancet 2013)。「急性心不全の初期治療に対して使われた薬剤(48時間静注投与)で長期予後が改善したのは大きな驚きである」と安斉氏はRELAX-AHF試験の結果を評価する。心血管死亡率、心不全悪化率を主要評価項目としたRELAX-AHF-2試験が、現在、進行中だという ※3。一方、我が国を含めたアジア地区での第Ⅲ相試験RELAX-AHF-Asia試験も進行中である。RELAX-AHF-Asia試験の登録条件は、入院を要する急性心不全、BNP≧500pg/mLまたはNT-pro BNP≧2,000pg/mL、16時間以内の無作為化が可能、フロセミドを少なくても40mg静注使用、eGFR≧25および≦75mL/min/1.73m2(Sato N et al. J Card Fail 2017)。RELAX-AHF-Asia試験は、2018年にエントリー終了予定。

新しい強心薬オメカムティブ メカルビル

 これまでにみた心不全治療薬は、すべて血管拡張作用を有する薬剤である。心不全治療薬の本家本元とも言える強心薬はどうなのか╶╴。「これまで様々な強心薬が臨床試験で検証されてきたが、予後改善を認めず、むしろ悪化させるというのがほとんどだった。そうした中で登場したのがオメカムティブ メカルビル(Omecamtiv mecarbil)である」と安斉氏。
 オメカムティブ メカルビルはミオシンに結合し、強弱2つあるアクチン・ミオシン結合のうち強アクチン・ミオシン結合の割合を増加させる低分子化合物である。オメカムティブ メカルビル静注による心筋細胞へのCa流入増加はないが、駆出時間を延長させるとともに強心作用をもたらす(Malik FI, Science 2011)。「心筋細胞内へのCa流入増加がないので、いわゆる強心薬に認められるCa過負荷による心筋毒性がない」と安斉氏はオメカムティブ メカルビルの特性を説明する。

 OMT(至適薬物治療)が行われているHFrEF患者(LVEF≦40%、45例)に対するオメカムティブ メカルビルの急性効果を調べた第Ⅱ相試験の成績では、プラセボと比較してオメカムティブ メカルビル静注開始1.5時間で駆出時間の有意な延長と1回拍出量の有意な増加、左室拡張末期・収縮末期容積の有意な減少がもたらされた(Cleland JG et al. Lancet 2011)。「オメカムティブ メカルビルは切れ味の良い急性心不全治療薬として期待されている」と安斉氏。

 ATOMIC-AHF試験(OMTが行われているLVEF≦40%の急性心不全患者、第Ⅱb相試験)では、オメカムティブ メカルビルの静注量から3コホートに分けて有用性が検討された(全606例)。オメカムティブ メカルビル群全体ではプラセボ群と比較して主要評価項目である呼吸困難改善効果に有意差はなかったが、高用量コホートでは有意な呼吸困難改善効果が認められた(Teerlink JR et al. J Am Coll Cardiol 2016) ※4

非ステロイド骨格を持つ新規MR拮抗薬フィネレノン

 前述のようにESCガイドライン2016では、MR拮抗薬についても言及されており、スピロノラクトン(Spironolactone)とエプレレノン(Eplerenone)が挙げられている。現在我が国におけるMR拮抗薬の適応はスピロノラクトンが高血圧症と心性浮腫(うっ血性心不全)など、エプレレノンが高血圧症と慢性心不全である ※5

 安斉氏によれば、スピロノラクトンとエプレレノンはステロイド骨格を持ったMR拮抗薬だが、臨床応用が検討されている非ステロイド骨格のMR拮抗薬フィネレノン(Finerenone)はMR受容体への選択性が高く、強力なMR受容体阻害作用を持つ(Pitt B et al. Eur J Heart Fail 2012)。エプレレノンが腎臓:心臓=3:1の分布に対して、フィネレノンは腎臓と心臓に同等に分布しており、心血管に対する選択性が高く、高カリウム血症の発現が少ない(Kolkhof P et al. J Cardiovasc Pharmacol 2014)。そのため、糖尿病や慢性腎臓病を合併する心不全患者に対する新規治療薬として期待されているという。

 HFrEF患者(LVEF≦40%)を対象にフィネレノン群(2.5mg、5mg、10mgを各々1日1回)とプラセボ群╶╴PART A=軽症CKDを伴う65例、安全性と忍容性を検証、二重盲検╶╴、フィネレノン群(2.5mg、5mg、10mgを各々1日1回、5mgを1日2回)とスピロノラクトン群(25mg、50mgを各々1日1回:オープンラベル) とプラセボ群╶╴PART B=中等症CKDを伴う393例、安全性と有効性を検証╶╴を比較した無作為化第Ⅱ相試験ARTSでは、PART Aにおける検討でフィネレノン群の安全性と忍容性が確認された。さらにPART Bにおける検討で、フィネレノン群はスピロノラクトン群と比べて高カリウム血症や腎機能(推算糸球体濾過量: eGFR)悪化をきたしにくいこと(高カリウム血症、腎機能悪化ともにフィネレノン群の各用量とスピロノラクトン群との間に有意差あり)などが示された(Pitt B et al. Eur J Heart Fail 2013)。

まとめ

 安斉氏は講演を次のようにまとめた。

表2 まとめ

  • ACE阻害薬 / ARB、β遮断薬、MR拮抗薬によっても心不全症状の十分な改善が得られない場合には、ACE阻害薬 / ARBをARNIに切り替える治療が今後の標準になる
  • NO-cGMP-PKG系に作用する合成ナトリウム利尿ペプチド、sGC刺激薬は、HFrEFだけでなくHFpEFに対しても有効な可能性がある
  • Serelaxin、Ularitide、OmecamtivのAHF(急性心不全)に対するRCT(無作為化比較試験)、FinerenoneのHFrEFに対するRCTに期待が集まっている

 討論の場で、新規心不全治療薬に関する本日のtake home messageを問われた安斉氏は、「キィワードの1つは治療ターゲットとしてのN0╶cGMP╶PKG Pathwayであり、HFrEF、HFpEFともにこのPathwayに働きかける新規心不全治療薬が話題になっていることだ」と答えた。また、「慢性心不全増悪で上昇しているBNPの多くは活性体ではなく前駆体であることが分かってきた(塩野義の測定キットによる)。そこで活性型のNa利尿ペプチド製剤を直接投与することは、心不全治療の有力な戦略になる可能性がある」との考えも示した。ARNIに関しては、「内服可能なNa利尿ペプチド製剤がない状況なので、内服で済むARNIは重要な位置を占めることになるだろう」と述べた。

  • ※1:大規模臨床試験OVERTURE(NYHAⅡ~Ⅳ度、LVEF≦30%、5,770例)では、中性エンドペプチダーゼとアンジオテンシン変換酵素(ACE)の双方を阻害する(dual inhibitor)オマパトリラート(Omapatrilat)群とACE阻害薬エナラプリル群の有効性が比較されたが、主要評価項目(総死亡+静注治療を必要とする心不全による入院)は両群間に有意差はなく(オマパトリラート群のエナラプリル群に対する非劣性が達成されたが優越性は示せなかった)、血管浮腫がオマパトリラート群で多いことが問題になった(Packer M et al.Circulation 2002)。OVERTUREは2002年の米国心臓病学会(ACC:アトランタ)で報告になり、PARADIGM-HFは2014年の欧州心臓病学会(ESC:バルセロナ)で報告された。12年の歳月を経て、撤退したオマパトリラートに代わってARNIが臨床の場に登場したことになる。
  • ※2: TRUE-AHFの結果は、2016年11月中旬にニューオリンズで開催された米国心臓協会学術集会(AHA)におけるLate Breaking Clinical Trialsで報告された(報告者:米国ベイラー大学メディカルセンターのMilton Packer氏)。主要評価項目は追跡期間中の心血管死、段階評価臨床複合項目(入院中の心不全の悪化や死亡なしの6、24、48時間における中等度または著明な症状改善、症状の中等度改善または不変、6、24、48時間における症状の悪化、入院中の最初の48時間における静注または機械的介入を必要とする心不全の持続および悪化、最初の48時間における死亡)。初期アセスメントから無作為化までの時間(中央値)6.1時間。心血管死(追跡期間の中央値15カ月)に関しては両群間で有意差がなく(P=0.75)、段階評価臨床複合項目は、改善群、無変化群、悪化群ともに有意差は認められなかった(P=0.82)。
     なおウラリチド群ではプラセボ群と比べて、48時間におけるNT-pro BNPが有意に減少した(P<0.001)。ウラリチド群では48時間の時点で、血管内のうっ血改善(decongestion)のマーカーであるヘモグロビン、血清クレアチニンが有意に増加し(各々P<0.001、P=0.005)、肝トランスアミラーゼが有意に減少した(P<0.001)。6、24、48、72、120時間における入院中の心不全悪化イベントはウラリチド群でプラセボ群より減少しており、48時間の時点ではウラリチド群で有意に減少した(P=0.005)。
     TRUE-AHFのこの結果について安斉氏は、次のようなコメントを寄せた。
     
    「これまでの急性心不全を対象にした臨床試験では、初期アセスメントから無作為化までに16~48時間程度を要していたことが、有意な結果を得られない原因と推測され、TRUE-AHFでは、全例12時間以内、中央値で約6時間という極めて早期に治療介入が行われた。しかし、入院中の心不全悪化軽減、48時間におけるNT-proBNPの低下はもたらされたものの、急性心不全における心筋傷害のマーカーであるトロポニンT値には変化なく、また心血管死や30日以内の再入院、全死亡などのハードエンドポイントには有意差を認めなかった。早期の血行動態を改善することが心筋傷害を最小限に食い止め、予後を改善するというストーリーが期待されていたものの、現実には難しいことが改めて示されたものといえる。ただし、ウラリチドにより収縮期血圧を低下させていたことが予後改善効果を減弱させた可能性も現時点では否定できず、サブ解析などを含めた論文発表が待たれるところである」。

    (注)その後、2017年4月16日付けのThe New England Journal of MedicineにTRUE-AHFの論文が掲載された
  • ※3:2017年3月22日付けのニュースリリースで、RELAX-AHF-2試験のスポンサーであるノバルティス(スイス、バーゼル)は、RELAX-AHF-2試験(6,600例)の主要評価項目(180日間における心血管死または5日間における心不全悪化)の減少はセレラキシン群で達成されなかった、と報告している。
  • ※4: オメカンティブ メカルビル(OM)を慢性心不全患者に経口投与した第Ⅱ相臨床試験COSMIC-HFの論文が2016年12月10日付けのLancet誌に掲載された(Teerlink JR et al.Lancet 2016:388;2895-2903)。COSMIC-HFの対象は、安定した症候性慢性心不全患者(LVEF≦40%、448例)で、OM固定用量群(OM25mgを1日2回)、OM薬物動態的漸増群(OM25mgを1日2回から開始し、2週後の朝服用前(トラフ)でのOM血漿濃度<200ng/mLの場合は、8週後に50mgを1日2回投与まで漸増)、プラセボ群に無作為に割付けた。主要評価項目であるOM血漿平均最高濃度は、12週後、OM固定用量群で200ng/mL、OM漸増群で318ng/mLだった(同試験ではOM最高濃度≧200ng/mLを目標としたが、≧1,000ng/mLとなることを避けた)。副次評価項目(20週後におけるベースラインからの変化:最小二乗平均による)に関してはOM薬物動態的漸増群では全項目でプラセボ群と比べて有意差が認められた。すなわち、収縮期駆出時間が25ms、1回拍出量が3.6mL有意に増加し(各々P<0.0001,P=0.0217)、左室収縮末期径が1.8mm、左室拡張末期径が1.3mm、心拍数が3.0拍/分、血漿NT-pro BNPが970pg/mL有意に減少した(各々P=0.0027、P=0.0128、P=0.0070、P=0.0069)。
     
     COSMIC-HFのこの結果について安斉氏は、次のようなコメントを寄せた。
     「OMが症候性の安定したHFrEF患者において心拍数を減少させるとともに血行動態を改善し、左室のリバースリモデリングと拡張末期壁応力を反映するNT-pro BNP値の低下をもたらすことが明らかにされた。本研究では、頻脈、血圧低下、上室性あるいは心室性不整脈、心筋虚血、心筋梗塞などの有害事象は生じなかったが、心筋トロポニンIのわずかな上昇が一時的に認められたとのことであった。症例数が比較的少ないため、安全性を確立するには今後も十分な検討が必要と考えられる。これまでのリバースリモデリングに関する報告は、神経体液性因子を抑制する薬物療法や心臓再同期療法(CRT)などによるものに限られていたが、強心薬による心機能の改善がリバースリモデリングにつながるとすれば新規性は高く、今後の心不全治療薬開発に大きな可能性が開かれるものと期待される」。
  • ※5:2016年12月、エプレレノン(20mg錠、50mg錠)が従来の高血圧症に加え、慢性心不全に対しても適応となった( 100mg錠は慢性心不全に対する適応はない)。

Part Ⅰ 虚血性心疾患

Part Ⅱ 心不全

Part Ⅲ 肺高血圧症

Part Ⅳ 不整脈

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