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循環器病治療の最新情報2016

Part Ⅰ 虚血性心疾患
その2「外科療法(CABG)の良さを再考する」

講演内容

 報告の冒頭で夜久氏は、「虚血性心疾患に対する冠血行再建術には冠動脈バイパス術(CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)があるが、対立させて考えるのではなく、各々の持ち味を活かして症例を選択することが臨床的に大事である。CABGが優れている面があれば、その理論的背景を内皮機能の面から再考したい」と述べた。

我が国における心臓血管外科手術の実施状況

 まず同氏は、日本胸部外科学会が毎年まとめている我が国における心臓血管外科手術(Cadiovascular Surgery)の施行状況(1986年~2014年)を紹介した(図)。

図 Cardiac Continuum

図 日本胸部外科学会が集計した我が国における心臓血管外科手術症例数の年次推移
Commitee for Scientific Affairs,The Japanease Association for Thoracic Surgery.Gen Thorac Cardiovasc Surg 2016;64:665-697

 同学会調査によると、2014年度の心臓血管手術は66,453例だった(578心血管系施設に質問状を送り97.1%にあたる561施設が回答)。そのうち先天性心疾患(Congenital)は9,269例(前年度より1.0%減少)だった。成人の心臓病手術は、弁膜疾患(Valve)21,939例、胸部大動脈瘤(Aneurysm)17,498例、その他(Other)が2,118例(各々前年度より0.8%、11.0%、13.2%増加)、虚血性心疾患(IHD)15,629例(前年度より5.6%減少)だった。2004年と比べると、この10年間で成人の心臓病手術は、IHDを除いて増加している(弁膜疾患は73.8%、胸部大動脈瘤は114.5%、その他は56.5%、各々増加。虚血性心疾患は26.5%の減少)。

 なおIHD15,629例のうちCABGのみは14,454例で、それ以外は心筋梗塞(MI)合併症(梗塞部位切除術/心室瘤切除術、虚血性僧帽弁逆流など)に対する手術と同時施行のCABG。

 同報告によれば、弁膜疾患、胸部大動脈瘤の手術数には同時にCABGを施行した症例が含まれており、これらも考慮すると2014年度のCABGは20,991例となっている。

 夜久氏は、体外循環(人工心肺)非使用のオフポンプCABGと体外循環使用のオンポンプCABGについても言及。2004年には全CABGの半数を越えて60.3%となったオフポンプCABGは、その後、現在に至るまで60%を上回る率を維持している(2013年63.8%、2014年62.3%)。海外諸国と比べてオフポンプCABG実施率が高いのは我が国の特徴であり、「日本はオフポンプCABG大国だ」と夜久氏。

多枝病変におけるCABGのエビデンス

 続いて同氏は、多枝病変に対するCABG群とPCI群を比較した成績を幾つか紹介した。BARI試験を含む10の無作為化試験のメタ解析(7,812例)では、5年後の死亡率、死亡率+MI発症率(無調整)ともに両群間で有意差はなかった(Hlatky MA et al. Lancet 2009)。「多枝病変には2枝病変も入ってくるので、無作為化試験における生存率の点で、CABGはPCIを凌駕できないというのが我々外科医の認識である」(夜久氏)。なお10試験中、6試験がバルーン血管形成術、4試験がベアメタルステント(薬剤非塗布金属ステント:BMS)だった(両手技間で死亡率に有意差なし)。

 一方、登録試験(リアルワールド)ではCABG群がPCI群より有意に優れる結果になってくるという。そのデータとして同氏は、New York's Cardiac Registry(CABG群約3.7万例、3枝病変69%、PCI群約2.2万例、3枝病変20%) におけるベースラインで調整した3年生存率、ASCERT 試験(CABG群約8.6万例、3枝病変80%、PCI群約10万3千例、3枝病変32%、65歳以上、追跡期間の中央値2.67年)におけるpropensity score(傾向スコア:介入の影響を算出スコアから評価し無作為化試験のように背景因子を揃える)で調整後の4年生存率などを示した。
New York's Cardiac Registryでは、2枝病変、3枝病変ともに左前下行枝(LAD)近位部病変の有無にかかわらず、CABG群で3年生存率が有意に優れていた(Hannan EL et al.N Engl J Med 2005)。ASCERT 試験における調整後の4年生存率も、CABG群で有意に優れていた(Weintraub WS et al.N Engl J Med 2012)。なおASCERT 試験におけるPCI群の内訳は、薬剤溶出性ステント(DES)78%、BMS 16%、バルーン血管形成術6%。

 我国のCREDO-Kyoto試験(CABG群1,708例、3枝病変83%、PCI群3,712例、3枝病変38%、いずれも初回施行例、左主幹部病変を除く)では、約3.5年の追跡後、ベースラインの背景因子無調整では生存率に両群間で有意差はなかったが(p=0.26)、調整後ではCABG群で生存率に良い傾向(p=0.06) が得られた(Kimura T et al.Circulation 2008)。PCI群はBMS85%。DESはなく、アテレクトミー(アテローム切除術)などが行われていた。
CABG群では内胸動脈(internal thoracic artery:ITA)グラフトが95%、オフポンプCABGが43%。

3枝病変におけるCABGのエビデンス

 続いて同氏はSYNTAX試験を取り上げた。同試験は、左主幹部病変および3枝病変を有する1,800例(欧州17カ国1,555例、米国245例)を対象に、血行再建術(CABG群 897例、PCI群 903例)の予後を比較したもので、1年後の主要評価項目(主要有害心・脳血管イベント:MACCE)はCABG群で有意に優れていたことが報告されている(Serruy PW et al. N Engl J Med 2009)。なおPCIにはDES(パクリタキセル溶出性ステント)を使用。オフポンプCABG15.0%。

 同氏によるとSYNTAX試験における3枝病変の5年後の成績(CABG群 549例、PCI群 546例)では、MACCEだけでなく総死亡、MI、総死亡+脳卒中+MI、再血行再建術ともにCABG群で有意に優れていた。従来、CABGの弱点とされていた脳卒中には両群間で差がなかったことにも同氏は注目している。またこれらの評価項目は、SYNTAXスコア(冠動脈病変の形態と重症度をスコアにより客観的に評価)が 中等度(23~32)、高度(33以上)では、やはりCABG群で有意に優れていた(Head SJ et al. Eur Heart J 2014)。

左主幹部病変におけるCABGのエビデンス

 夜久氏によれば左主幹部病変の成績は、「かなりPCI優位に傾いている」という。韓国から報告されたPRECOMBAT試験では、2年間の追跡で、CABG群(300例)とPCI(シロリムス溶出性ステント)群(300例)の間でMACCEに差はなく、PCI群のCABG群に対する統計的に有意差を持って非劣性が達成されている(Park SJ et al. N Engl J Med 2011)。「この成績をみても、左主幹部病変はもはやCABGの聖域ではない」と夜久氏。しかしサブ解析では、3枝病変を伴った左主幹部病変、右冠動脈病変を伴った左主幹部病変ではCABG群で有意にMACCEが少なかった(各々、P=0.01、P=0.05)、とも付言している。

 同氏は、SYNTAX試験における左主幹部病変の5年後の成績も紹介したが(CABG群 348例、PCI群 357例)、MACCE、総死亡、MI、総死亡+脳卒中+MIに両群間で有意差はなかったものの、CABG群では脳卒中、PCI群では再血行再建術が有意に多かった(Morice M-C et al.Circulation 2014)。「3枝病変で有意差がなかった脳卒中は、左主幹部病変ではCABG群で有意に多くなっていた」と夜久氏。SYNTAXスコアが軽症と中等度(0-32)ではMACCEは両群でほぼ同じだったが、高度(33以上)ではCABG群で有意に少なかった。

 続いて夜久氏は、「2014 欧州心臓病学会(ESC)/欧州心臓-胸部外科学会(EACTS)心筋血行再建術ガイドライン」(Eur Heart J 2O14)に話を進めた。同ガイドラインでは、SYNTAX試験の成績などに基づき、左主幹部病変でSYNTAXスコア22以下はPCIもCABGと同じ推奨レベルⅠとされており、再度、「左主幹部病変はもはやCABGの聖域とは言えない」と指摘。3枝病変でも、SYNTAXスコア22以下はPCIもCABGとやはり同じ推奨レベルⅠとなっている。 しかし、左主幹部病変で特にSYNTAX32以上、3枝病変ではSYNTAXスコア23以上ではCABGをPCIよりも数段高い推奨レベルに位置付けていることを指摘(CABGの推奨レベルⅠ、PCIの推奨レベルⅢ)。「左主幹部病変でSYNTAXスコア32以上、3枝病変ではSYNTAXスコア23以上では、原則CABGを行うほうが良い」と夜久氏は強調する。

DM合併例ではCABGに軍配

 「さらにCABGの選択に強く繋がるのが糖尿病(DM)患者である」として夜久氏は、前出のHlatkyらによる10件の無作為化試験のメタ解析において(追跡期間の中央値5.9年)、非DM合併例(6,561例)ではCABG群とPCI群は死亡率に対してほぼ同じ効果だったが、DM合併例(1,233例)ではCABG群で死亡率が低下した成績を紹介した(DM合併例と非DM合併例のベースラインでの調整後の交互作用p=0.008)。同メタ解析では、BARI試験(サブ解析においてDM患者ではCABG群がPCI群より生存率を有意に改善すると初報告:N Engl J Med 1996)の患者を除外しても、DM合併例でCABG群が有意に優れていた(交互作用p=0.048)。

 DM合併多枝疾患患者(1,900例)を対象としたFREEDOM試験(生存例の追跡期間の中央値3.8年)でも、5年後、CABG群で総死亡/非致死的MI/非致死的脳卒中、総死亡がDES(薬剤溶出性ステント)群よりも有意に減少した(Farkouh ME et al. N Engl J Med 2012)。このうち非致死的脳卒中はPCI群で有意に少なかった。こうした両群間の差は試験開始2年後から認められた。同試験では3枝病変がCABG群84.5%、DES群82.3%。同試験で使われたDESはシロリムス溶出性ステント51%、パクリタキセル溶出性ステント43%。CABG群ではオフポンプ18.5%。

 前述の左主幹部病変および3枝病変を対象としたSYNTAX試験における5年後の成績では、DM合併例、非合併例ともにMACCE、再血行再建術はPCI群でCABG群よりも有意に高率だった。SYNTAXスコアが中等度と高度では、やはりDM合併例、非合併例ともにMACCEや再血行再建術はPCI群で有意に高率だった。なお、DM合併例の再血行再建術は、SYNTAXスコアが軽度でもPCI群で有意に高率となっていた(Kappetein AP et al. Eur J Cardiothorac Surg 2013)。
「DM合併例、非合併例ともにCABG群が優れるとの成績だが、PCI群との差がDM合併例の方でより顕著になっている」と夜久氏はコメントしている。

 この成績を受けて、ACC(米国心臓病学会)/AHA(米国心臓協会)などによる「米国の安定虚血性心疾患患者の診断と管理改訂ガイドライン」(Circulation 2014)では、複雑2枝病変を含んだ3枝病変にはCABGを推奨している。また同ガイドラインは、DM合併複雑多枝病変例における冠血行再建術に際しては、ハートチームによるアプローチが推奨されるとも述べている。
前述の「ESC/EACTS心筋血行再建術ガイドライン」でも、DM合併多枝病変ではCABGを推奨しているが、SYNTAXスコア22以下の場合にはPCIを考慮すべきだとしている。

PCIと内皮機能障害

 続いて夜久氏は、冠血行再建術においてCABGが優れた成績を示す理論的背景について、バイパス用血管(グラフト)の血管内皮機能の面から考察を加えた。
 同氏によれば血管内皮は分泌器官であり、血管拡張物質(一酸化窒素:NO、プロスタサイクリン、ブラジキニンなど)と血管収縮物質(エンドセリン、アンジオテンシンⅡなど)の「良いものと悪いものとの微妙なバランスの上に血管内皮機能が保たれている」という。しかし、酸化ストレス、血小板凝集、サイトカイン分泌の亢進などの侵襲が加わることにより血管収縮物質のウエイトが高まると、このバランスが崩れこれが動脈硬化の進展にも繋がる。冠危険因子の数が多いほど、アセチルコリンに対する血管内皮機能反応が低下することも知られている(Davignon J,Ganz P. Circulation 2004)。

 糖尿病は血管平滑筋の収縮性を高め、内皮からの血管拡張物質の放出を抑制する方向に働く。「糖尿病は血管内皮機能には悪い作用をする」と夜久氏。また高血糖は、様々なカスケードを介して酸化ストレスを亢進させ血管内皮機能を障害することも分かっている(De Vriese et al. Br J Pharmacology 2000)。
PCIは粥状硬化病変に介入することでさらに内皮機能障害を惹起させ、これが炎症性細胞浸潤を促し二次的な炎症性反応の活性化が生じ、これが内皮機能障害をさらに促進させるという(Toutouzas K et al. Eur Heart J 2004)。

 DES(シロリムス溶出性ステント)とBMS(ベアメタルステント;薬剤非塗布金属ステント)を同一患者の異なった冠動脈セグメントに植え込んで、アセチルコリンを冠注して血管反応をみると(48病変)、どちらのステントもアセチルコリン負荷により血管収縮が生じるが、DESの方が血管収縮の程度が高かったことが報告されている(Mischie AN et al. Catheterization and Cardiovascular Intervention 2013)。「これはDESのほうが内皮機能障害が強いことを意味する」と夜久氏。

 DES(シロリムス溶出性ステント40例、パクリタキセル溶出性ステント26例)植え込み後の冠動脈内皮機能と新生内膜被覆度度(血管内視鏡で評価)の関係を調べた我が国からの報告では(追跡期間9カ月)、ステント遠位部での新生内膜被覆度が低い群(33例)におけるアセチルコリンによる血管収縮の強さは、良好な群(33例)よりも有意に強かった(Mitsutake Y et al. J Am Coll Cardiol Intv 2012)。「新生内膜の張り具合が少ない部位では、DESによる内皮障害が強いことが示唆される」(夜久氏)。

 既にPCIを受けたことがある症例(13例)では、まだ受けたたことがない症例(31例)よりも、CABGによるグラフト開存率が有意差はないものの劣るとの報告があるが(Kamiya H et al. Interactive Cardiovasc Thorac Surg 2004)、こうしたPCIによる内皮障害が関連しているのではないかと夜久氏はみる。

 またDM合併3枝疾患患者に対してCABGを実施した成績では、既にPCIを受けたことがある症例(621例、平均入院日数8日)では、まだ受けたことがない症例(128例、平均入院日数9日)よりも院内における総死亡や主要有害心血管イベントのリスクが有意に増加し、院内における心臓突然死、心臓由来の死亡、低心拍出症候群、周術期心筋梗塞も有意に増加するとの報告もあり(Thielmann M et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2007)、「PCIを受けたことのある症例に対するCABG実施後早期におけるこうしたデータは、我々心臓外科医の間ではコンセンサスになっている」と夜久氏はいう。

 DM患者(1,758例)でPCI先行例(221例)では、非先行例(1,537例)と比べて、CABG術中の死亡、周術期の主要有害心血管イベントが有意に増加し、さらには2年後の年齢調整生存率が有意に悪いとの報告もある(Tran HA et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2009)。「このようにPCI先行例におけるCABGは、非先行例と比べると長期予後が劣る可能性もある」(夜久氏)。

ITAを使ったCABGで内皮機能が改善

 現在、バイパスのグラフトとして繁用されているITAは「神様の贈り物だ」と夜久氏は言う。というのも臨床的検討(39例)において、ITAグラフト(24本)は、大伏在静脈グラフト(saphenous vein graft:SVG:16本)と比べて、アセチルコリン刺激後にNO濃度が有意に増加して血管拡張が生じ、154カ月経過してもNO分泌能が維持されており、しかもグラフトで繋いだ冠動脈も拡張させることが報告されているからだ(Nishioka H et al. J Thorac Cardiovasc Surg 1998)。「ITAは内皮機能を保持あるいは促進する効果があり、NO分泌がグラフトの下流の冠動脈にも良い影響を与えている」という点に夜久氏は注目する。

 グラフトが繋がった冠動脈(native)の近位部または遠位部の初発狭窄病変の割合も、ITAではSVGよりも有意に低いという幾つもの報告がある(Kitamura S. Circ J 2011)。「これまでにみたエビデンスから、この結果は容易に想像できる」(夜久氏)。

 初回CABG患者を対象としたCoronary Artery Surgery Study(観察研究)において、ITA群(749例)ではSVG単独群(4,888例)よりも15年後の生存率を有意に改善することも示されている(Cameron A et al. N Engl J Med 1996)。
「ITAを一本でもバイパスに使うと、すべてSVGでバイパスしたよりも15年後の生存率が良いことが分かった。この臨床試験以降、左ITAは世界的にグラフトのゴールデンスタンダードとなり、特に重要な左前下行枝(LAD)のバイパスに欠かせないものとなった」と夜久氏はこの試験の意義をコメントする。

 左右あるITAの片側よりも両側を使用した方が生存率に有意に良い影響を与えるとのメタ解析(7試験、15,962例)の結果も報告されている(Taggart DP et al. Lancet 2001)。現在、同論文の筆頭著者らにより、無作為化試験が進行中だという*。

 両側ITAを左冠動脈系(左ITAを左回旋枝および右ITAをLAD)に繋ぐ群(187例)では、左ITAをLAD、右ITAを右冠動脈に繋ぐ群(311例)よりも約10年後の生存率が有意に改善したとの報告もある。改善は6年後から始まったという(Schmidt SE et al. Ann Thorac Surg 1997)。
「神様の贈り物である2本のITAをより重要な左冠動脈系に繋ぐと、さらにバイパスの効果が上がる」と夜久氏。

 両側ITAを左冠動脈系(LADと左回旋枝)に繋ぐと、LADと右冠動脈に繋ぐ、LADのみに繋ぐ、使用せず、に比べて再CABG回避率が高まること(特にLADのみ、使用せずに比べて)も報告されている(Sabik JF 3rd .AATS meeting 2005)。

 夜久氏によると、現在、ITAの採取には超音波メス(Harmonic Scalpel)を使ったskeletonization(周囲の静脈を剥がしてITAだけを採取)による方法(Higami T et al. Ann Thorac Surg 2000)が広く行われている。
「我が国の関係施設の約50%は、超音波メスを使った採取をしていると思われる」(夜久氏)。

 ITAに超音波メスをあてると、特に内皮細胞が障害されていないものでは、内皮依存性の血管弛緩が認められ、NO分泌が促進しているとの基礎実験での報告もある(Maruo A et al. Ann Thorac Surg 2000)。

 オフポンプCABG群(20例)ではオンポンプCABG群(拍動流20例、無拍動流20例)と比べて、内皮機能を維持してサイトカインによる炎症反応を抑制することを示唆するデータもある(Onorati F et al. Eur J Cardiothorac Surg 2010)。

 最後に夜久氏は、PCIとCABGの手技をイラストで紹介。「PCIは局所麻酔で済み低侵襲であるが、ステントといった生体外の材料を使って病変を修正するため、病変から下流の内皮機能は傷害されていることは否めない事実である。一方、CABGは全身麻酔で開胸しても病変には触れない。しかもITAを使うとNOが分泌され、それがさらに下流にも影響して冠動脈の内皮機能を保持/促進する可能性がある。これが将来の責任病変を保護する作用に繋がると考えられる。特にDM合併例や高度3枝病変などダメージの大きな冠動脈に、ITAを使ってバイパスすると生存率が高まるとの臨床成績は、こうしたことから理解できる」と述べた。

まとめ

 夜久氏は講演を次のようにまとめた。

表 まとめ

  • 糖尿病患者および3枝病変患者における内皮機能は抑制されている
  • PCI(バルーン血管形成術、BMS; ベアメタルステント、DES; 薬剤溶出性ステント)は、内皮に傷害と炎症を引き起し、さらには内皮の損傷も引き起こす。
  • 内胸動脈はNOを分泌している可能性があり、冠動脈グラフトの内皮機能を保護/促進する
  • 以上のことは、CABGがPCIを上回る利益(特に糖尿病患者)をもたらす理論的ベースとなる
  • 超音波メスを使って採取した両側内胸動脈を(特に左冠動脈系に)使ったオフポンプCABGは、CABGによる利益をさらに増す可能性がある

 討論の場でハートチームに関連して同氏は、「特に冠動脈疾患の場合、目の前の受診患者を自分の領域で対応しようとする傾向がある。その患者に最適な治療の選択肢を、循環器外科、循環器内科、コメディカルのハートチーム全体で話し合う方向にもっと進むべきだろう」と述べた。

後記

*2016年11月14日付けのNew England Journal of Medicine誌に、この無作為化試験(The Arterial Revascularization Trial: ART)の中間報告(5年間の追跡結果)が掲載された。これは本年11月中旬にニューオリンズで開催された米国心臓協会学術集会(AHA)におけるLate Breaking Clinical Trialsで報告されたARTの中間報告と同時掲載されたものである。
 それによると、ARTはCABGにおけるグラフトとして片側(1本)ITAと両側(2本)ITAの長期の予後改善効果を比較するため、2004年にスタートした(7カ国、28心臓外科センター)。登録患者(3,102例)は片側ITA群(LADに使用、1,554例)と両側ITA群(最も重要な左冠動脈系に使用、1,548例)に無作為に割り付けられた。第一次評価項目は10年間追跡の総死亡。今回の5年間追跡の中間報告では、総死亡は両側ITA群8.7%、片側ITA群8.4%(ハザード比1.04、95%信頼区間0.81-1.32,P=0.77)と両群間で有意差がなかった。複合評価項目の総死亡+心筋梗塞+脳卒中も両側ITA群12.2%、片側ITA群12.7%(ハザード比0.96、95%信頼区間0.79-1.17,P=0.69)と両群間で有意差がなかった。胸骨の創傷合併症は両側ITA群3.5%、片側ITA群1.9%(ハザード比1.87、95%信頼区間1.02-2.92,P=0.005)と両側ITA群で有意に増加した。さらに10年間の追跡に向けて進行中だという。

 この中間報告について夜久氏は次のようなコメントを寄せた。
「Taggartらのこの研究は10年間の結果をエンドポイントとしているので、5年の段階ではまだ結論が出せない。ただこの研究で現時点で気になるのは、両側内胸動脈に割り付けられた患者の10%以上が実際には片側になっていること、また創部感染が両側で頻度が高くなっていることである。内胸静脈を胸壁に残してスケレトナイズ法で内胸動脈を採取すれば創部感染を防止できるという報告もあり、どのような方法で内胸動脈採取がされているかも気になるところである」。

Part Ⅰ 虚血性心疾患

Part Ⅱ 心不全

Part Ⅲ 肺高血圧症

Part Ⅳ 不整脈

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