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循環器病治療の最新情報2016

Part Ⅰ 虚血性心疾患
至適薬物療法(Optimal Medical Therapy:OMT)とは

はじめに―― Cardiac Continuum

 報告の冒頭で藤田氏は、高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙などのリスクファクターが動脈硬化/左室肥大を引き起し、これが心筋梗塞(MI)/心筋障害に繋がり、さらにリモデリング(肥大・拡大・線維化)から心不全そして死亡、あるいは不整脈から突然死にいたるCardiac Continuum(心血管イベントの連鎖)を示した(図)。

図 Cardiac Continuum

図 Cardiac Continuum
Dzau V,Braunwald E et al.Am Heart J:1991;121:1244-1263より引用改変

 そして、冠危険因子を始めこのContinuumを成立させている各要素への介入(血行再建術、抗血小板療法、神経体液性因子の制御、慢性心不全の薬物療法、不整脈治療など)こそが、虚血性心疾患の治療戦略となることを指摘した。

狭義のOMTとその実際

狭義のOMTとCOURAGE試験

 米国とカナダの50施設で実施されたCOURAGE試験では、薬物治療で安定している安定狭心症例(2,287例)を冠動脈インターベンション(PCI)+OMT群とOMT単独群に無作為に割り付けて予後が検討された。その結果、PCIはOMT以上の有意なリスク低減がないとの成績が得られた(Boden WE,et al.N Engl J Med 2007)。

 COURAGE試験のOMTの内容と治療の到達目標はどういったものだったのか╶╴。
まず禁煙。中等度の運動(30~40分、週5回)、BMI(25Kg/m2未満)、血圧(130/85mmHg未満)、HbA1c7.0%未満、LDL-C値60-85mg/dL、HDL-C値40mg/dL以上、TG値150mg/dL未満などを到達目標としている。

 5年後のLDL-C値は、PCI+OMT群が71mg/dL、OMT単独群が72mg/dLまで到達している。また5年後の血圧値は、各々124/70mmHg、122/70mmHgまで到達している。この数値から、「OMTというのは強力脂質低下療法の言い換えのことでもある」と藤田氏は述べた。

 使用薬剤のうち最も高頻度なのはアスピリンで、両群ともベースラインで約95%に使われており、それが5年後まで維持されている。スタチンは両群ともベースラインでは80%台後半で使われていたが、5年後には90%台前半に届いている。ACE阻害薬も当初の60%ほどが5年後には数パーセント増加している。ARBは当初は約5%、5年後には10%台。β遮断薬は当初から85%ほどがずっと維持されている。「ARBよりもACE阻害薬が多い、β遮断薬が非常に多く使われているなど、このOMTの内容は、我々が虚血性心疾患患者に日常診療で平均的に処方しているものとは少し異なっていることを認識する必要がある」と藤田氏。

 COURAGE試験の10年超長期試験でも、PCIはOMT以上に予後を改善しなかった。COURAGE試験について藤田氏は、「あくまでも薬物治療により症状が安定している安定狭心症が対象であり、しかもOMTの 厳格な目標が達成されている」という点に留意することを強調している。

 このCOURAGE試験でのOMTの良好な成績を受けて、その後、1種以上の抗血小板薬(アスピリンなど)、抗虚血薬(ACE阻害薬/ARB)、β遮断薬、脂質低下薬(スタチン)の併用療法は虚血性心疾患におけるOMTのゴールド・スタンダードになったという。

 COURAGE試験のNuclear Substudyでは、心筋虚血SPECTによる1年後残存虚血による予後を比較したところ、残存虚血の程度に応じて予後が悪いとの成績も得られている(Shaw LJ et al. Circulation 2008)。つまり、SPECTで心筋虚血が証明された安定狭心症患者では、PCIによる虚血領域の減少により予後が改善するということになる。

 BARI-2D試験(2,368例)では、糖尿病患者における血行再建(PCI、CABG)とOMTの比較も行われている。その結果は、PCI vs OMTでは生存、主要有害心血管イベント(MACE)とも同等、CABG vs OMTではCABGでMACEが有意に減少した(N Engl J Med 2009)。

OMT実施状況

 血行再建後のOMT実施状況はどうなのか╶。PCI Cath Registry (n=1,489,745、2004-2007年、786施設)の調査では、軽症非閉塞性冠動脈疾患ではアスピリン71.4%、スタチン58.3%、β遮断薬56.1%、ACE阻害薬/ARB 45.1%、中等度非閉塞性冠動脈疾患では各々、71.6%、64.9%、63.3%、48.4%。閉塞性冠動脈疾患では各々、90.9%、80.2%、79.3%、58.6%(Maddox TM et al. Cir Cardiovasc Qual Outcomes 2010)。閉塞度が強まるほどOMT実施が高まっているが、「全体として比較的低率のようである」(藤田氏)。

 CABG後のOMTを調査したPREVENT Ⅳ 試験(2,970例)では、退院直後の抗血小板薬95.9%、β遮断薬88.8%、脂質低下薬83.8%と高いが、ACE阻害薬/ARBは46.0%と低い。1年後は各々94.6%、76.9%、86.5%、59.5%(Goyal A, et al. Ann Thorac Surg 2007)。

 PREVENT Ⅳ 試験で藤田氏が注目するのが、CABG後のOMTの服薬状況と2年後の予後だ。OMTとして処方されたすべての薬剤を服用していた症例を基準(参照値)にすると、処方された薬剤の半分以上服薬例では2年後の予後(死亡/MI)に有意差はないが、半分未満服用例では1.69倍有意に高くなっていた。「せっかくCABGを受けても、OMT下でしっかり服薬していないと予後が悪い」と藤田氏は指摘する。

 同氏によれば、COURAGE試験以前の調査だがCABGとPCIを実施後のOMTを比べると、CABG群でスタチン、ACE阻害薬/ARB、β遮断薬の処方率は有意に低かったとの報告がある。これはKaiser Permanente Northern Californiaのデータベースに基づくもので(2000-2007年)、初回でCABG(n=8,837)またはPCI(n=14,516)を受けた患者を対象としたものである(Hlatky MA et al. J Am Coll Cardiol 2013)。

 前出のCOURAGE試験では、PCI実施前後のOMT実施状況に変わりはないとも報告されているという(Borden WB et al. JAMA 2011)。

 0MTには4剤全部が必要なのか╶╴。この視点から同氏はβ遮断薬のデータを紹介。MIや心不全に対するβ遮断薬の有効性は確立されているが、REACH登録研究では、虚血性心疾患ではMI既往の有無にかかわらず心血管イベントに対する有意な予防効果を認めず、リスクのみの場合はかえって有意に予後が悪化した(Bangalore S et al. JAMA 2012)というネガティブな成績が示されているという。

SYNTAX試験におけるOMT

 同氏はSYNTAX試験におけるOMTについても考察した。同試験は、3枝病変または
左冠動脈主幹部病変を有する1,800例(欧州17カ国1,555例、米国85施設245例)を対象に、血行再建術(CABG群 897例、PCI群 903例)の予後を比較したもの。主要評価項目(主要有害心・脳血管イベント:MACCE)は1年後、PCI群で有意に高かった(Serruy PW et al.N Engl J Med 2009)。

 SYNTAX試験でのOMT(少なくとも1剤の抗血小板薬+スタチン+ACE/ARB+β遮断薬)実施例は治療前524例、退院時733例。退院時には糖尿病・高血圧・脂質異常症・MI既往などでOMT導入が多かった(Iqbal J et al.Circulation 2015)。

 同試験でのOMT実施率は、3年後まではPCI群で約50%と高かった。抗血小板薬、スタチンは5年後までずっとPCI群で高かったが、β遮断薬はPCI群とCABG群の間で差はなかった。ACE/ARBは当初6か月ではPCI群で使用が高かったが、1年以降はCABG群と差がなかった。

 OMTの長期予後に対するアウトカムをみると、血行再建後1年間だけでなく、5年後の死亡/MACCEも有意に減少していた。「これはインパクトのあるデータだ」と藤田氏。

 5年後MACCEの改善に、抗血小板薬・スタチン・ACE/ARBそしてβ遮断薬の4種類の薬剤すべてが関与していた。ただしACE/ARBとβ遮断薬は、他の2剤ほどハザード比は改善していない。

 AHA(米国心臓協会)/ ACCF(米国心臓病学会財団)の「冠動脈疾患/その他の動脈硬化性血管疾患二次予防ガイドライン2011」では、禁煙、血圧<140/90mmHg、BMI 18.5-24.9Kg/m2、糖尿病ではすべての危険因子のコントロール、HbA1c<7.0%を目標とした治療、心臓リハビリテーションを挙げており、各々の推奨レベルとエビデンスレベルが提示されていることも同氏は紹介した。

 さきほど話題に出たβ遮断薬は、同ガイドライン(GL)において左室駆出率<40%、ACS後正常心機能では推奨レベルⅠ(エビデンスレベルは各々A、B)、すべての冠疾患では推奨レベルⅡa(エビデンスレベルC)となっている。

広義のOMT(高血圧・脂質異常症・糖尿病)

 次に藤田氏は、広義のOMTに話題を移し、冠危険因子の制御のための、高血圧・脂質異常症・糖尿病に対する介入について概観した。

標準降圧vs厳格降圧(SPRINT試験から学ぶもの)

 藤田氏は、「現状の推奨目標降圧値よりも強力な降圧に有益性はあるか?」との問いを立て、無作為化試験(RCT)において強化治療群(目標収縮期血圧<120mmHg)と標準治療群(目標収縮期血圧<140mmHg) とを比較したSPRINT試験の成績を紹介した。

 SPRINT試験は、75歳以上や心疾患・腎疾患の危険因子を有する50歳以上の高血圧患者(9,361例)を対象とし3.6年間追跡。追跡終了時の平均収縮期血圧は強化治療群では121.5 mmHg、標準治療群では134.6 mmHgであった。降圧強化の達成により、一次評価項目(心筋梗塞、心筋梗塞によらない急性冠症候群:ACS、脳卒中、急性非代償性心不全、心血管死)が25%、総死亡が27%、各々有意に低減した(N Engl J Med 2015)。

 日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン(JSH)2014では、家庭血圧の降圧目標を例えば前期高齢者では<135/85mmHg、後期高齢者では<145/85mmHgとしている。こうした数値を紹介した藤田氏は、「SPRINT試験の成績は、これらの降圧目標を再考するきっかけとなるかもしれない」と指摘した。

 なおSPRINT試験では、これまでの臨床試験で厳格降圧のエビデンスが得られなかった糖尿病(後で触れる臨床試験ACCORDなどによる)と脳卒中既往が除外されている。血圧値は受診時に自動血圧計(Model 907,Omron Healthcare)で測定されているが、医師や医療関係者が居ない場所で患者自身が測定しているので従来の診察室血圧値と同じとは言えないのではないかと議論が続いている。

コレステロール値はThe lower, the betterが確立

 藤田氏は、4S(1994年、4,444例)、Heart Protection Study(2002年、20,536例)、REVERSAL(2004年、654例)、PROVE-IT(2004年、4,162例)などの脂質臨床試験を挙げて、コレステロール値は“The lower, the better”が確立しているとした。いずれもスタチンを使ったもので、REVERSALは退縮試験、他は予後改善効果をみたものだ。

 同氏が示したデータによると、PROVE-ITではアトルバスタチンによる強力治療(LDL-C<62mg/dL)ではプラバスタチンによる標準的治療(LDL-C<95mg/dL)よりも、一次評価項目(総死亡、MI、入院を要する不安定狭心症、血行再建術、脳卒中)が16%有意に低下した(Cannon CP, N Engl J Med 2015)。4Sではシンバスタチンによるコレステロール25%低下により、総死亡が30%有意に減少することが初めて報告された(Lancet 1994)。

米国の「Fire and Forget」GL

 藤田氏は、2013年に発表になったACC/AHAの脂質GLを取り上げ、同GLの要旨を次のように紹介した。

 ①スタチンは一次あるいは二次予防において動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の発症リスクを有意に減少させる。②スタチン以外の薬剤によるリスク低下のエビデンスはない。③LDL-Cやnon-HDL-Cの治療目標値を設定できるようなエビデンスはない。④背景に応じて中等量/高強度を投与すれば予後良好。⑤管理目標値は不要。⑥LDL-Cモニタリングはアドヒアランス確認目的。

 同GLは、⑤にある「管理目標値は不要」ということから「Fire and Forget」(ミサイル発射の軍事用語。撃ち放しておけば、あとはミサイル自身が標的を狙う)のGLと称されている。これに対して、従来の目標値を設定した方法はTreat to Target と呼ばれている。欧州や日本のGLはTreat to Targetに従っているという。

 「Fire and Forget」GLでは、二次予防・LDL-C≧190mg/dL・糖尿病・10年ASCVDリスク≧7.5%に分けて、高強度あるいは中強度スタチンを使い分けることになる。

 藤田氏はスタチン療法の強度の内容にも触れた。同GLによると高強度スタチンとはLDL-Cを50%以上の低下、中強度スタチンとは30~50%の低下を達成するものをいう。高強度を得るにはアトルバスタチン40~80mg、ロスバスタチン20~40mgを必要とするが、我が国のいわゆる「ストロングスタチン」のほとんどは中強度を得るものに相当することに同氏は留意を促している。

スタチン+エゼチミブのエビデンスが得られたIMPROVE-IT

 上記②には、スタチン以外の薬剤によるリスク低下のエビデンスはない、とあるが、藤田氏によればその後、脂質大規模臨床試験IMPROVE-IT、18,144例)で、スタチンにエゼチミブ(コレステロールトランスポーター阻害剤)を追加することで予後改善が認められた(Cannon CP et al. N Engl J Med 2015)。IMPROVE-ITでも、LDL-C低減が臨床イベント抑制に結びつくことが示されたという。

 IMPROVE-ITはACSを対象とした二次予防試験だが、A to Z(Phase Z、4,497例)、前出のPROVE-ITもACSを対象とした二次予防試験である。この他、AMIを対象としたIDEAL(8,888例)、安定狭心症を対象としたTNT(10,001例)なども挙げた藤田氏は、これら二次予防試験において、通常のLDL-C低下療法と比べると、積極的なLDL-C低下療法で一層の予後改善効果が得られたことを指摘した。

新登場の抗体医薬品 PCSK9阻害薬

 次に藤田氏は、脂質低下薬として新しく登場したPCSK9阻害薬を取り上げた。

 PCSK9はFHの原因遺伝子の1つとして同定された蛋白だが、LDL受容体の分解を促進することも分かった。PCSK9阻害薬はLDL受容体の分解を阻害することで、血中LDL-Cを低下させる。

 我が国では今年になって、エボロクマブ(140mgを2週間に1回または420mgを4週間に1回皮下投与)とアリロクマブ(75mgを2週間に1回皮下投与。効果不十分な場合は150mgに増量)の2つのPCSK9阻害薬が承認された。両者ともPCSK9を標的としたヒト型モノクローナル抗体製剤である。適応は家族性高コレステロール血症(FH)と高コレステロール血症だが、心血管イベントの発現リスクが高く、スタチンで効果不十分な場合に限定されている。

 藤田氏はエボロクマブの有用性を検討したOSLER試験(4,465例)を取り上げ、プラセボ群と比べてエボロクマブ群(標準治療としてスタチン使用約70%)では48週後のLDL-Cの平均絶対減少値70.5mg/dL、相対減少率58.4%、心血管イベント53%、各々有意減少という数字を紹介した(Sabatine MS et al. N Engl J Med 2015)。

 ODYSSEY LONG TERM試験(2,341例)では、アリロクマブ群(ほぼ全例にスタチン使用)ではプラセボ群よりも第一次評価項目である24週後のLDL-Cが61.9パーセンテージポイント有意に低下し(平均絶対減少値約71.6mg/dl)、post hoc解析でMACEが48%有意に減少したと報告されている(Robinson JG et al.N Engl J Med 2015)。

 PCSK9阻害薬により、The lower, the betterの具体的な数値や安全性が確認できるのではないかと期待されている。

 2016年にはESC(欧州心臓病学会)/EAS(欧州動脈硬化学会)が脂質管理の新GLを発表している(Catapano AL,et al.Eur Heart J 2016 Aug 27,Epub)。

 藤田氏は脂質管理方針(二次予防)を次のようにまとめた。①ハイリスク(FHも含む)ではLDL-CはLower is the better、②LDL-C<70mg/dL(ESC GL:超ハイリスク例)、③LDL-C<100mg/dL(日本動脈硬化学会GL)、④「Fire and Forget」(AHA)でも75歳以上はスタチンの高強度投与、⑤PCSK9阻害薬の適応を検討。

糖尿病治療のゴール

 糖尿病治療では、血糖コントロールの指標としてHbA1cが広く使われており、これを低下させるための治療が行われている。藤田氏によれば、これはもともと細小血管症を念頭に置いた考えであるが、近年は、大血管症を標的にした予後改善を目指す治療も行われるようになっているという。

 強化治療によるリスク軽減に関連して同氏が取り上げたのが、UKPDS80である。UKPDSは1977年から1991年までの間、英国23施設で新規2型糖尿病患者(4,209例)を対象に実施された研究である(1997年に終了)。UKPDS33において、強化治療群(スルホニル尿素薬またはインスリン、過体重者ではメトホルミン:HbA1c中央値7.0%)では、通常療法群(食事療法: HbA1c中央値7.9%)よりも有意な細小血管症の減少が認められた(Lancet 1998)。UKPDS34において、過体重者ではメトホルミン群(HbA1c中央値7.4%)
で通常療法群(HbA1c中央値8.0%)よりも全糖尿病関連エンドポイント(大血管症を含む)、総死亡、脳卒中が有意に減少した((Lancet 1998)。

 藤田氏が紹介したUKPDS80(3,277例)は、こうした血管症予防効果のその後の経過を調べるため、試験終了10年後に行われたpost-trial monitoring試験。UKPDSに参加した患者は、試験が終了した1997年に両群とも通常療法に移行していた。

 同氏によれば、UKPDS80では両群間でHbA1cの差は消失していたが、強化治療群では
全糖尿病関連エンドポイント、糖尿病関連死、MI、総死亡が有意に減少した。強化治療群のうちスルホニル尿素薬またはインスリン群では細小血管症のリスクも有意に減少した(Holman PR e al, N Engl J Med 2008)。試験関係者はこの効果をlegacy effect(遺産効果)と呼んでいるという。

血糖管理強化療法と心血管イベント抑制

 続いて藤田氏は、ACCORD、ADVANCE、VADTという大規模臨床試験に言及。これらの試験は、新規糖尿病を対象としたUKPDSと違って、ACCORDとADVANCEは血管疾患の合併、あるいはその危険因子を持つなどのハイリスク2型糖尿病患者が対象(糖尿病罹病期間は10年前後)。VADTは罹病期間が11.5年と長く血糖コントロール不良の2型糖尿病の退役軍人(約40%に心血管既往あり)を対象としている。

 ACCORD(10,251例、平均追跡期間3.5年)では強化療法群(終了時のHbA1c中央値6.4%)で標準療法群(終了時のHbA1c中央値7.5%)に比べ、一次評価項目(非致死的MI、非致死的脳卒中、心血管死)の有意な減少を認めず、総死亡、心血管死ともに有意に増加した。強化療法群では体重増加が有意に大きく、低血糖の頻度が有意に高かった(N Engl J Med 2008))。
ADVANCE(11,140例、追跡期間の中央値5年)では強化療法群(終了時のHbA1c中央値6.5%)で標準療法群(終了時のHbA1c中央値7.3%)より一次評価項目(大血管症+細小血管症)、細小血管症が有意に減少した(腎症で有意差あり、網膜症は有意差なし)。大血管症は有意差がなかった。ただACCORDと違って、総死亡、心血管死の増加は認めなかった。重症低血糖は余りみられなかったが、強化療法群で有意に多かった(N Engl J Med 2008)。
VADT(1,791例、追跡期間の中央値5.6年)では強化療法群(終了時のHbA1c中央値6.9%)と通常療法群(終了時のHbA1c中央値8.4%)との間で、第一次評価項目(心血管イベント)、死亡、細小血管症などに有意差がなかった。低血糖は症候性、非症候性ともに強化療法群で有意に多かった(N Engl J Med 2009)。
これらの試験は、期待に反した結果となった。

 しかし、5つの大規模臨床試験(UKPDS、PROactive、ADVANCE、VADT、ACCORD)のメタアナリシスでは、強化療法による大血管症の発症抑制効果が確認されているという(Ray KK et al.Lancet 2009)。「低血糖のリスクを避ければ、強化療法は大血管症の発症抑制に有効」と藤田氏はまとめる。

 同氏が示したメタアナリシスに使われたハイリスク2型糖尿病患者を対象としたPROactive(5,2381例)では、インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾンが二次評価項目(総死亡、非致死的MI、脳卒中)を有意に減少させている(Dormandy JA Lancet 2006)。

インクレチン関連薬とSGLT2阻害薬の安全性と予後改善効果

 次に藤田氏はインクレチン関連薬に話を進めた。インクレチンは、膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を増加させ、グルカゴンの分泌を抑制することで血糖値上昇を抑制するホルモンの総称である。インクレチン関連薬はこれらホルモンのうちGLP-1をターゲットとして開発された薬剤で、GLP-1を分解するDPP-4を阻害してGLP-1濃度を高めるDPP-4阻害薬、GLP-1受容体を刺激することでGLP-1濃度を高めるGLP-1受容体作動薬(DPP-4による分解を受けにくいGLP-1アナログ製剤)の2つがある。

 藤田氏はインクレチン関連薬のうち、まずDPP-4阻害薬の心血管リスクへの効果に言及。サキサグリプチンのSAVOR-TIMI53(16,492例、追跡期間の中央値2.1年)、アログリプチンのEXAMINE(5,380例、追跡期間の中央値18カ月)、シタグリプチンのTECOS(14,671例、追跡期間の中央値3.0年)のいずれの臨床試験でも、これらDPP-4阻害薬はプラセボ群と比較してハイリスク2型糖尿病患者(EXAMINEはACSによる入院後患者)の第一次評価項目(SAVOR-TIMI53とEXAMINEは心血管死、非致死的MI心筋梗塞、非致死的脳卒中の3ポイント、TECOSはこれらに不安定狭心症による入院が加わった4ポイント)を増加も、減少もさせなかったことを紹介した。

 これらの試験は、米国FDA(食品医薬品局)やEMA(欧州医薬品庁)の求めた新規血糖降下薬の安全性確認に応えるため標準治療に加える形で検証されたもので、その意味では当初の目的を達する結果となっている。いずれの試験でも、DPP-4阻害薬群のプラセボ群に対する有意な非劣性が証明されている。

 ただ、SAVOR-TIMI53ではサキサグリプチン群で心不全による入院リスクがプラセボ群より1.27倍有意に高かった。DPP-4阻害薬と心不全の関係が話題になったが、TECOSでは、シタグリプチン群とプラセボ群の心不全による入院リスクは同じ結果になっている(各々3.1%)。
これら3つの試験のメタ解析では、有意差はないがDPP-4阻害薬群で心不全による入院リスクの増加が認められている(ハザード比1.14、95%信頼区間0.97-1.34、Son J et al.Diabetes Metab 2015)。

 続いて藤田氏は、やはりインクレチン関連薬だが皮下注製剤であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬のリラグルチドを使った臨床試験LEADERを紹介した。ハイリスク2型糖尿病患者を対象としたLEADER(9,340例、追跡期間の中央値3.8年)では、標準治療にリラグルチドを加えることで、プラセボ追加と比べて第一次評価項目(初発の心血管死、無症候性を含む非致死的MI、非致死的脳卒中)が13%有意に減少した。総死亡も15%有意に減少した(Marso SP et al.N Engl J Med 2016)。順番としては、次に藤田氏が紹介した臨床試験EMPA -REG OUTCOMEに続いて得られたエキサイティングな成績となっている。

 EMPA -REG OUTCOME(7,020例、追跡期間の中央値3.1年)ではSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの予後改善効果が検討された。エンパグリフロジン群ではプラセボ群よりも、第一次評価項目(心血管死、無症候性を除く非致死的MI、非致死的脳卒中)が14%有意に減少した。第一次評価項目は特に高齢者やHbA1c<8.5%で有意に改善していた。心血管死は38%、総死亡は32%、心不全による入院は35%各々有意に減少した。非致死的MI、非致死的脳卒中については標準治療群との間に有意差なかった。忍容性に関しては良好だった(Zimman B et al.N Engl J Med 2015)。

 なお同試験の206週後のHbA1cのプラセボ群との平均差は、10mg/日群で-0.24、25 mg/日群で-0.36パーセンテージポイント。

 SGLT2阻害薬は、過剰な糖を尿中に排泄しインスリン非依存性に血糖を降下させるというユニークな作用機序を持つ。

 LEADERもEMPA-REG OUTCOMEも、やはり安全性確認のための試験だが、このように予後に対する好影響が示された。EMPA- REG OUTCOME試験について藤田氏は、「エンパグリフロジンはHbA1cを余り下げていないのに良い結果が得られた。その理由として利尿作用など様々な機序が議論されているが、糖尿病治療のパラダイム・シフトとなる可能性がある」と評価している。現在、さらに複数のSGLT2阻害薬の安全性試験が進行中である。

まとめ

 藤田氏は、二次予防における冠危険因子への介入方針を次のようにまとめた。
特に高リスク群では、高血圧、LDL-Cともに「Lower is better」。糖尿病は低血糖を避けつつHbA1cは下げる。SGLT2阻害薬ではHbA1c以外のターゲットも存在。

 同氏は虚血性心疾患におけるOMTを総括した(表)

表 OMTの総括

  • OMTは予後改善のために重要である
  • Underuseが問題である
  • アスピリンは生涯投与
  • 高血圧、脂質異常は特に高リスクでLower is better
  • 糖尿病はHbA1cを単一目標とするほか、SGLT2i、GLP-1投与が新たな役割を担う可能性がある
  • ACE-I/ARB、β遮断薬は心機能低下例で投与が望ましいが心機能正常例での意義も強く示唆されている
  • 生活習慣も含めた広義のOMTについて更に広く検討と普及が望まれる

 統括中、「Underuse 」というのは、普及度が低いということである。また「ACE阻害薬やβ遮断薬の心機能正常例での意義」はSYNTAX試験での5年後MACCEの改善データ(前述)を踏まえていると藤田氏はいう。

 同氏は、医療の方向が従来の個別化医療(Personalized Medicine)から緻密化医療(Precision Medicine)に向かいつつあると指摘した。個別化医療はゲノムSNPs(一塩基多型)から疾患罹患性・薬物感受性をもとに個々に最適の治療法の提供を目指すというもの。これに対し緻密化医療は患者を精密な診断によりサブブループに分類し、対応する医療や予防法の確立を目指すものだという。緻密化医療は2015年、米国オバマ大統領が打ち出した医療政策(Precision Medicine Initiative)。

 藤田氏は「医療の質指標(Quality Indicator:QI)」にも言及。聖路加国際病院院長の福井次矢氏が監修した著書からQIにかかわる次の部分を引用し、それらの向上のためにOMTが重要だと強調した。

  • 左室機能が悪い心不全入院患者へのβ遮断薬処方率
  • 左室機能が悪い心不全入院患者へのACE阻害薬/ARB処方率
  • 糖尿病患者の血糖コントロール
  • 高血圧患者の血圧測定率
  • 降圧薬服用患者の血圧コントロール
  • LDLコレステロールのコントロール
    (Quality Indicator 2015「医療の質」を測り改善する 福井次矢監修 聖路加国際病院QI委員会編集 インターメディカ 2015)

結語

 以下、藤田氏の結語である。

  • OMTの予後改善に対する意義を再認識し
  • すべての冠動脈疾患患者について最低限の処方を確認
  • 冠危険因子は個々に管理目標を定め実現を期する
  • 各薬剤による至適管理目標・用量は背景により緻密に決定

 座長の山口氏から、「ご紹介いただいたOMTの実施状況は、主に米国のデータだったが日本人におけるOMTのデータはどうか」と問われた藤田氏は、「抗血小板薬やスタチンについてはデータがあると思うが、ACE阻害薬/ARB、β遮断薬は欧米と用量の違いもあり詳しくは分かっていないと思う」と答えた。

 また討論の場で、「日本人は服薬コンプライアンスが良いので、処方された薬はしっかり長期にわたって服用し続けると思う。必ずしも4剤すべてを使うということではなく、どの患者にどの薬剤を処方するかの判断が必要になる。“医療の質指標”などで実施状況を把握してOMTを客観的に評価することも大事になるだろう」とも述べた。

Part Ⅰ 虚血性心疾患

Part Ⅱ 心不全

Part Ⅲ 肺高血圧症

Part Ⅳ 不整脈

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