メディアワークショップ

一般市民の皆さんに対する心臓病を制圧するため情報発信、啓発活動を目的に、
情報発信能力の高い、メディアの方々を対象にしたワークショップを開催しております。

第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~

IT技術を利用した医療の先駆けとしては、テレメディスン(Telemedicine:遠隔医療)が挙げられる。ネットワークを通じて画像関連の診断や臨床病理の診断などを行うもので、特に高血圧の領域において積極的に進められている。中元氏はインターネットの黎明期から遠隔医療に携わり、数多くの知見を有している。今回は、生活習慣病における遠隔医療の現況と将来像について解説した。

増加する生活習慣病におけるITの役割

生活習慣病とはその名の通り、食生活や運動といった生活習慣の変動に伴い生じる疾患である。メタボリックシンドロームや糖尿病、肥満、高血圧などは、生活環境の利便性が高い現代において避けがたい疾患の要因となるため、その対策と予防が重要な課題となっている。また、今後大きく生産年齢人口が減少するわが国においては、生活習慣病による医療費の圧迫も看過することはできない。
 

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図1. 降圧目標値
 
2014年の4月、日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2014」が発表されたが(図1)、今回の改定の大きなポイントは「高血圧は患者の診察室血圧および家庭血圧のレベルによって診断される。この際、両者に較差がある場合、家庭血圧による高血圧診断を優先する」と記載されたことである。つまり、これまで標準と考えられていた外来血圧よりも、家庭血圧のほうが有用性が高いと明記されたのである。その理由は「家庭血圧の予後予測能、すなわち臨床的価値は、診察室血圧よりも高いことが明らかであり、白衣高血圧、仮面高血圧の診断と治療への応用には、診療室外血圧測定値による判定が優先されているから」と書かれているが、背景には、「4,000万台」といわれる家庭血圧測定装置の普及がある。
 
ただし、家庭血圧の測定においても、記録や持参が面倒と測定・提示しない患者がいたり、記録の選択や加工が可能なことに伴う信憑性の低さといった問題がある。近年の家庭用自動血圧計においては、測定したデータを自動転送し、サーバに集約・分析する機能を持つものもあり、家庭血圧のデータをリアルタイムで共有できるような仕組みが整いつつある。これによって、正確な患者データを把握することが可能になるであろう。
 
これからの生活習慣病管理の実際
 
家庭での血圧管理における大きな進歩のひとつは、インターネットの普及にある。多くの情報を瞬時に入手することが可能になったために、例えばこれまで100万円かかっていた情報交換コストが、口頭や文書による伝達の手間が省けた分、およそ半分くらいで済むようになった。さらには、伝達の正確性も高くなる。これは産業革命に匹敵する変化である。
 
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図2. 医療における情報の流れ
 
医療現場においては、患者、医師、保険者などの間で、頻繁に情報のやりとりが行われている(図2)。この分野においても、インターネットの有用性は極めて高いといえる。
 
在宅を中心とした遠隔医療に関しては、およそ20年前のインターネット黎明期より、家庭腹膜透析の管理から取り組んでいるが、これまでは機器の問題や運用コスト、システムの使いにくさ、反応の鈍さなど多くの問題があった。携帯電話などを利用する場合は、モデルチェンジが早く、それに対応しきれないという課題も有していた。
 
前述したとおり、現在では情報の交換コストは下がり、モバイル機器の発達によって、データ転送も容易になっている。ただし、データを集約するサーバの管理に関しては、どうしてもそれなりのコストがかかってしまう。保険医療は外来での管理が中心になるため、ITなどのコストを保険者が負担する流れにはない。我々医師がサーバに蓄積されたデータを確認する際にも、相当な時間を要する。こうしたシステムを運用した在宅医療の推進に関しては、何らかの形で収益性を高めるか、あるいは補助を受けない限りは続けていくのが難しい。

高齢化社会における生活習慣病の管理は、遠隔医療が中心に

遠隔医療は、中国や韓国との連携も盛んに行われている。例えば旭川医科大学では、中日遠隔医療プロジェクトに取り組んでいるほか、同大の遠隔医療センターで行われている海外との遠隔医療システム実施件数は、年間で3,000件近くになっている。
 
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図3. 九州大学病院アジア遠隔医療開発センター
 
また、九州大学でも学術ネットワークを活用した国際遠隔医療として、韓国の医療機関と海底光ケーブルを活用した試みを行うとともに、アジア各国で手術のライブ中継や、遠隔医療教育、研究者の招聘・受け入れも行っている(図3)。
 
海外と連携した医療の開発、画像転送は、今や一般的なシステムになりつつあるが、現在は日本の大学がイニシアチブをとって行っているIT化の研究などは、今後中国や韓国に取ってかわられる可能性もある。かつてテレビなど電子機器の技術者が海外に流出したように、医療システムの構築に関しても、お株をとって奪われるような事態は起こりうる。例えば近い将来、患者さんの診断がネットワークを通じて中国や韓国で廉価で行われ、手術のみ渡航して行われるようなことがないとはいいきれないのである。
 
米国においても、遠隔医療の開発は例えばアメリカ航空宇宙局が中心になって取り組み、宇宙ステーションにいるクルーの血圧を管理し、心電図を記録するようなシステムが構築されている。
 
超高齢化社会において、生活習慣病の管理の決め手が遠隔医療になることは間違いない。患者さんと医師との距離を縮めるためにも、IT化は不可欠である。生活習慣病を防ぐ仕組みの構築は、国民に対する還元にもつながると考え、我が国でも国を挙げての取り組みが望まれる。

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