第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
開発中の抗不整脈薬、抗血栓薬に寄せられる期待
新 アミオダロンの後継品と目されているdronedaroneが挙げられます。アミオダロンの有効性は高いのですが、間質性肺炎などの呼吸器障害や甲状腺機能亢進症など心外副作用が問題となるため、その軽減を目的として類似した構造式をもつdronedaroneが開発されました。しかし、dronedaroneも心不全などの心機能が悪い症例では死亡率が高くなることが海外の臨床試験で報告されており、課題は残されています。このほか、日本ではアセチルコリン感受性Kチャネル遮断薬など、作用機序の異なる薬剤の開発が進行中です。
会場 抗血栓療法において、ワルファリンは効果が高い一方で治療管理が煩雑なようですが、開発中の新規薬剤の可能性についてはいかがでしょうか。
新 ワルファリンの感受性は個体差が大きいため、定期的な血液凝固能検査に基づいて投与量を増減しなくてはなりません。また、その効果はビタミンK含有食品により減弱したり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)といった併用薬剤により増強されたりします。
現在開発中の薬剤には、rivaroxabanなどの第Xa因子阻害薬、dabigatranなどのトロンビン阻害薬がありますが、1日の服用錠数が決まっており、また相互作用も少ないようです。
カテーテルアブレーションでは治療成績の安定化が課題
会場 カテーテルアブレーションの合併症のリスク、ならびに術者による治療成績の差について教えてください。
山根 カテーテルアブレーションでは、心タンポナーデなどの合併症を引き起こすことがあります。また、術後は血栓ができやすくなり脳梗塞のリスクもありますので、一定期間ワルファリンを服用する必要があります。合併症の発生頻度は、施行件数の多い施設では0.5~1%以下と極めて低率ですが、皆無ではありませんので、リスクも含めた十分なインフォームドコンセントを行うことが不可欠です。
また、すべての医療行為には施設ならびに術者の格差が存在し、カテーテルアブレーションも例外ではありません。日本でカテーテルアブレーションが盛んに行われるようになってから十数年とその歴史は浅く、全国で安定した治療水準を得るには、まだ時間を要すると思われます。
相互の発展が望まれる薬物療法と非薬物療法
会場 現在、国内で行われているカテーテルアブレーションの施行状況を教えてください。また、カテーテルアブレーションの適応を判断する客観的な指標はあるのでしょうか。
山根 日本全国で行われているカテーテルアブレーションの半数程度が心房細動に対して行われていると思います。適応については、検査データなどの明確な基準はありませんので、慎重に検討する必要があります。第一選択は薬物療法であり、効果が不十分な場合や患者さんが薬の継続服用を望まない場合にカテーテルアブレーションを考慮します。
小川 カテーテルアブレーション施行後も、薬物療法が必要とされるのはどのようなケースでしょうか。
山根 発作性の症例では、9割以上の方がカテーテルアブレーションのみで根治可能になってきています。一方、慢性例ではカテーテルアブレーション施行後、約半数は少量の抗不整脈薬を投与しており、これにより洞調律が維持できる確率が高くなります。慢性例に対しては、カテーテルアブレーション単独で根治させることを目標とするのではなく、薬物療法を併用することによって病態の改善を図ることができればよいのではないかと思います。
小川 薬物療法と非薬物療法は相補的なものであり、決して対立するものではありません。心房細動の治療にあたっては、患者さん一人ひとりに合った適切な治療が必要であり、そのためにも双方が発展していくことが望まれます。本日はありがとうございました。
INDEX
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
- 第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?
- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
- 第7回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい循環器医療機器の臨床導入をめぐる問題点」
- 第6回日本心臓財団メディアワークショップ「不整脈の薬物治療に未来はあるか」
- 第5回日本心臓財団メディアワークショップ「メタボリックシンドロームのリスク」
- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
- 第2回 「心筋梗塞は予知できるか」
- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」