高齢者の心不全

社会の高齢化に伴い、高齢者の心不全が増えています。
息切れや動悸などの症状があっても「年のせい」と思い込んで、そのままにしていませんか?

心臓リハビリテーションの
すすめ

以前は、心臓病のある人は、安静第一で、運動は避けるべきだと考えられていました。たしかに、心不全後の不安定な時期や心機能が著しく低下している状態で運動することは危険です。しかし、最近では、心臓病には運動は欠かせないものとなっており、心不全後の患者さんにもさまざまな「心臓リハビリテーション」が行われるようになっています。

リハビリテーションというと、骨折や脳卒中後に、動かなくなった手足を動くように訓練している場面を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実は、心臓リハビリテーションの目的は、こうした機能回復だけではありません。

入院中に行われる「急性期リハビリテーション」は、急性心不全で入院した患者さんを早期離床させ、日常生活に戻すために行われるものです。高齢者では、入院がきっかけでそのまま寝たきりになってしまう危険もあるため、早期の社会復帰を目指す訓練はとても大切です。

そして、さらに重要になるのが、回復期および退院後の「慢性期リハビリテーション」です。有酸素運動を中心とした運動を続けることで、自律神経や血管の機能を是正し、心不全の悪化による再入院を防ぐこともできることが明らかになっています。

ただ、自己判断で不適切な運動を行うことはかえって危険です。心不全の患者さんや心筋梗塞後の患者さんのリハビリテーションでは、まず、心肺運動負荷試験(CPX又はCPET)を行い、最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値を測定します。そして、それらのデータをもとに、個々の患者さんにとって最適の「運動処方」(どれくらいの強度の運動をどれくらいの時間行うか)を作成し、それに基づいた運動を行っていきます。心肺運動負荷試験が行えない施設では予測最大心拍数をもとに運動処方を作成することもできます。

このように、心臓リハビリテーションでは、急性期・慢性期と時期に合わせた適切なプログラムによって、単に機能回復や維持を図るという目的のほかに、「チーム医療」で継続的に患者さんを指導していくことで、少しでも予後を改善するといった目的もあります(図20)。リハビリを行うために、患者さんは定期的に通院するようになりますので、その機会を利用して、薬剤師は「薬はきちんと飲めていますか」、栄養士は「塩分を摂り過ぎていませんか」というように声をかけます。単に運動を行うだけでなく多職種のスタッフが患者さんに包括的なアプローチを行い、相談に乗ったり、生活指導を行ったりします。こうした取り組みは「包括的疾病管理プログラム」と呼ばれています。

図20:心臓リハビリテーション
図20 心臓リハビリテーション

高齢者のなかには、認知症やフレイルがあったり、独居や老々介護といったさまざまな問題を抱えていることが多く、塩分制限や服薬管理などが、一人ではうまくできなくて困っている方もたくさんいます。こうした高齢者には、様々な職種の医療従事者が積極的に関与する必要があり、患者指導のきっかけとなる心臓リハビリテーションは、その一翼を担っているといえます。

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