高齢者の心不全

社会の高齢化に伴い、高齢者の心不全が増えています。
息切れや動悸などの症状があっても「年のせい」と思い込んで、そのままにしていませんか?

心不全の薬物治療

薬物治療(薬による治療)は、心不全治療の基本となるものです。心不全の薬物治療の目的は大きく分けて二つあります。第一に、息切れや浮腫みなどの症状を改善すること、第二に、予後の改善、つまり心不全が悪くなって入院することを防ぎ、死亡率も下げ長生きできるようにすることで、それぞれの目的に適した薬を使う必要があります。予後を改選する薬の多くは生活の質(QOL)も改善することが知られています。

第一の目的に最も適した薬は、利尿薬です。心不全になるとレニン・アンジオテンシン、アルドステロンなどのホルモンが多く分泌されて、体に水分とナトリウムが溜まる結果、血液のうっ滞(うっ血)が起こり、息切れやむくみといった症状が現れます。利尿薬は体に溜まった水分やナトリウムを尿に出すことによって、うっ血を改善し、心不全の症状を軽くします。主に使われる利尿薬はループ利尿薬ですが、効果不十分の場合にはトルバプタンなども用いられます。

第二の目的に用いられる薬剤としては、左室の収縮機能の低下が原因で起きる心不全では、①アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ACE阻害薬が副作用などで使えない場合はアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、②交感神経の緊張を抑えるベータ(β)遮断薬、③アルドステロン拮抗薬、さらに最近使えるようになった薬剤として④サクビトリル/バルサルタン、⑤SGLT2阻害薬などがあります。これらの治療薬を使っても心不全の悪化を繰り返す場合にはベルイシグアトという薬剤も使われます。また脈が規則正しく(洞調律)かつβ遮断薬などの治療薬を用いても脈が速い場合にはイバブラジンという薬剤も用いられます。これらの薬剤は、大規模臨床試験によって収縮不全の患者さんが心不全が悪化して入院したり死亡することを防ぐ効果があることが証明されています。これらの薬のなかには心不全の症状がなくても、心臓の機能が低下していることが分かった段階から始めたほうがよいものもあります。

一方、左室の収縮機能の保持された心不全については、上記のように明らかに寿命を延ばす効果のある薬は見つかっていませんでしたが、最近になりSGLT2阻害薬がこのタイプの心不全の入院や死亡を防ぐ効果があることが明らかとなりました。心不全の症状をとるためには、左室機能の低下に基づく心不全と同様、利尿薬が有効です。また収縮機能の保持された心不全では高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、心房細動などを合併していることが多いため、これらの併存症の治療をしっかり行うことも重要です。

心不全の薬物治療の効果を最大限に引き出すためにはまずきちんと薬を服薬していただくことがとても重要ですが、いずれのタイプの心不全においても高齢の患者では、薬をきちんと飲めない方や生活習慣の注意をまもれない方も多くなりますので、薬剤師や看護師が介入したり、家族がこれらについてのサポートをする必要も出てきます。

もう一つ、知っておいていただきたいのが、心不全以外の病気の治療に使われる薬が、心不全を悪化させることがあるということです。たとえば、鎮痛剤や消炎剤は腎臓の機能を落とし、体に水分が溜まりやすくします。そうなると心不全の悪化を助長する可能性がありますので、使用は必要最小限にすべきです。また、不整脈の薬やカルシウム拮抗薬の一部は、心臓の働きを弱め、心不全を悪化させる危険性があるといわれています。漢方薬のなかでは、甘草を含むものは、鎮痛剤・消炎剤と同様の理由で注意が必要です。糖尿病の薬のなかにも心不全を起こりやすくするものがあります。循環器以外の診療科から薬が処方されている場合は、どんな薬を飲んでいるのか、循環器の先生に知っておいてもらう必要があります(図19)

図19:心不全の薬物療法
図19 心不全の薬物療法

2023年8月改訂

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